最新記事

心理

大人になっても続くいじめの後遺症

2016年7月25日(月)15時40分
ケイト・バッガリー

Aleutie-iStock.

<子ども時代のいじめは後々まで影響を及ぼす。何年もたって「成人いじめ後症候群(APBS)」を発症することもある>

 アメリカの学校でいじめといえば、プロム(卒業記念ダンスパーティー)や生徒会選挙、アメリカンフットボールチームと似たような存在。つまり、自分は直接関わっていなくても、どこかで誰かがやっていることは知っている。

 5年前にホワイトハウスで行われたいじめ防止会議で、バラク・オバマ大統領は「大きな耳と名前のせいで、私もいじめと無縁ではなかった」と語った。「でもいじめはよくあることだから、私たちは見て見ぬふりをすることがある」

 いや、見て見ぬふりはすべきでない。いじめは子供の心身をむしばむことが研究で分かっている。その結果、睡眠障害や不登校、鬱病、自傷、自殺などさまざまな問題が生じる。

【参考記事】サイコパスには犯罪者だけでなく成功者もいる

 被害は子供時代だけにとどまらない。いじめられた経験をきっばり忘れることはできないと、家族療法士でシラキュース大学准教授のエレン・デラーラは指摘する。彼女は18~65歳の800人以上に、いじめの長期的な影響についてインタビューを実施。かつてひどいいじめに遭った人には、大人になって独特な症状が現れるのを見てきた。

 彼女は新著『いじめの傷』で、そうした症状を「成人いじめ後症候群(APBS)」と名付けている。

 デラーラは、インタビューした人のうち3分の1以上がAPBSだと推測。ただしAPBSは診断名ではなく、説明のための表現だと彼女は強調する。精神疾患とは見なしていないのだ。

 アメリカの学生のおよそ3分の1は学校でいじめに遭っているとされる。いじめの種類は仲間外れ、噂話、悪口、身体的危害などだ。サイバーいじめの数は分かりにくい。ほかの形態のいじめよりも新しく、いじめに利用されるテクノロジーが常に変化するからだ。被害者は一匹狼タイプもいれば、友人やライバルから付きまとわれるタイプもいる。

APBSの導火線は長い

 いじめの被害から何年もたって、APBSの人は信頼感や自尊心の欠如に苦しみ、精神的な問題を抱えがちになることが、デラーラの調査で判明した。そうした問題に対処するため、他人の言いなりになる、食べ物やアルコール、ドラッグに依存するといった傾向も見られる。

 APBSは、恐ろしい経験をした人が発症する「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」に似た面もある。APBSもPTSDも継続的な怒りや不安、薬物乱用、自尊心の崩壊、人間関係の問題を招くことがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・メキシコ首脳が電話会談、不法移民や国境管理を協

ワールド

パリのソルボンヌ大学でガザ抗議活動、警察が排除 キ

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中