最新記事

中国経済

中国指導部が捨てられないGDP成長率の追求という悪習

全人代での新たな成長戦略の説明は「Bマイナス」。数字への固執は過剰投資や統計改ざんを招く

2016年4月4日(月)15時30分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

無理な目標設定 李克強が宣言すべきは「成長率目標」ではなかったはず Damir Sagolj-REUTERS

 毎年3月、中国では「両会」として知られる政治劇場の長期公演が行われる。天安門広場に面した人民大会堂で、全国人民代表大会と中国人民政治協商会議が開催され、戦略協議や政策の概要決定がなされるのだ。

 欧米諸国からは「形式的」と一蹴されることの多い両会だが、問題は会議の在り方ではなく、そこで発信されるメッセージだ。世界第2位の経済大国である中国の今後を理解する上で、重要な意味を持つのだから。

 例えば9年前。当時の温家宝(ウエン・チアパオ)首相は両会での演説で、中国の経済モデルは「不安定、不均衡、不調和で持続不可能」と語った。

 国際社会(と中国)は、この警告をもっと深刻に受け止めるべきだった。だがそうはならず、中国は世界金融危機後の09年に大規模な景気刺激策を実行。派手にカネを使いまくった結果、経済はさらに不均衡、不安定かつ持続不可能になった。

 中国は今、「投資主導型の輸出重視モデル」から「消費とサービス重視型のモデル」へと、成長戦略の移行を模索している。先日閉幕した今年の両会は、そうした先行きが極めて不透明なタイミングで開催された。

【参考記事】中国は景気刺激のアクセルを踏むのか踏まないのか

 成長戦略の転換には失業や社会の混乱が伴うし、しかも中国は株式市場と通貨市場の変動により二重の損失を出している。世界の投資家たちは「中国の指導部は果たして有能なのか」と、疑問を抱き始めている。

 だから今年の政治劇場には、これまで以上の「技巧的な演技」が必要だった。中国は国際社会に対して、国内経済の変化を理解しており、それに伴う諸問題を克服する力があると示さなければならなかった。中国指導部の経済運営能力を疑い始めている機関投資家や欧米諸国に向かって、信憑性のあるメッセージを発信することも求められていた。

 彼らの「演技」への私の評価は合格ラインより少し上。アメリカで言う「Bマイナス」だ。

中国の正しい「目標」とは

 李克強(リー・コーチアン)首相が発表した第13次5カ年計画は、イノベーションとインターネットを新たな推進力にして、今ある成長の原動力を補完していくという適切なものだった。中国のeコマース革新は本物であり、国内各地の企業やコミュニティーに変革をもたらしている。

 イノベーションを実行する上で、鉄鋼や石炭産業で雇用縮小が見られるだろうと李は認めたが、大量の失業者を出すことはないと断言。国庫にある潤沢な備蓄金を失業者支援のために使うと約束した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾周辺で軍事演習開始 新総統の就任後

ビジネス

中国超長期国債の取引停止、価格急落受け深セン証取

ビジネス

中国PDD、第1四半期売上高が予想上回る Temu

ビジネス

欧州の銀行、国境を越えた合併は可能性低い=仏ソジェ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

  • 2

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 5

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 6

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    魔法の薬の「実験体」にされた子供たち...今も解決し…

  • 9

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中