最新記事

モンゴル

爆買いされる資源と性、遊牧民を悩ます中国の野心

2015年4月17日(金)12時27分
楊海英(本誌コラムニスト)

 草原の国の地下にはウランやレアアース、石炭と石油など豊富な資源が眠る。モンゴルの心ある人たちは日本やカナダの企業にクリーンな開発を委ねようとするが、有力な国会議員はチャイナマネーに買収され、鉱物採掘権も中国企業に譲渡された。中国企業は環境に一切配慮しない乱開発の手法を導入して、資源を略奪して自国へと運ぶ。
モンゴルの鉱山であるにもかかわらず、地元の雇用促進にもつながらない。中国から大挙してやって来た中国人労働者はゴミを草原に捨てて環境を汚染し、都市部に現れた中国人ビジネスマンは公然と女性の性を買う。まるで植民地宗主国出身者のような振る舞いがモンゴルの民族主義を刺激している。

 今のモンゴルが置かれている状況は19世紀末から20世紀初頭までの近代史と似ている。中国人商人が資金と人脈を駆使して貿易を独占し、モンゴルの脆弱な経済を牛耳っていた時代だ。疲弊し切った遊牧民は武装蜂起をして清朝から独立を宣言。ソ連革命と連動して世界第2の社会主義国家の誕生を1924年に実現した。

 モンゴルの一部が国家として独立して90年余り。民族自決の夢はまだ道半ばだ。モンゴル民族の半分、すなわち南半分の内モンゴル自治区に暮らす同胞はまだ中国の抑圧下にある。ニューヨークに本部を置く南モンゴル人権情報センターはほぼ毎日のように、モンゴル人の草原が中国に占領されて、貧困のどん底に追い込まれている状況を世界に伝えている。

 内モンゴル自治区における中国の強権的な統治手法が国境を越えて自国に波及するのをモンゴル人は危惧する。未解放の内モンゴルの同胞と同じように再び中国の植民地に転落するのではないか、との危機感をモンゴル国民は共有している。

 草原の普通の遊牧民を「極右の民族主義団体」だと誇張する中国からは、虎視眈々と周辺国をねじ伏せようとする野心が見えてくる。

[2015年4月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ

ビジネス

中国、日本の輸出規制案は通常貿易に悪影響 「企業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中