最新記事

事故

水の事故は静かに起きる

Drowning Doesn't Look Like Drowning

ドラマチックに助けを呼ぶのは映画の中だけ。騒いでいた子供が静かになったら要注意

2013年7月30日(火)17時18分
マリオ・ビットーネ(元米沿岸警備隊員、水上安全の専門家)

 ザブン! そのフィッシングボートの新米船長は、突然海に飛び込むと、ビーチに向かって一直線に泳ぎ始めた。

「あの船長、君が溺れていると思ってるんじゃないかな」と、夫が妻に言った。そして「大丈夫ですよー!」と叫ぶと、手を振って「来なくていい」と合図した。それでも船長は懸命に泳ぎ続けている。「どいて!」

 あっけに取られる夫婦をよそに、元ライフガードの船長は夫婦の3メートルほど後ろで溺れかけていた9歳の少女を助け上げた。ようやく水面に顔を出した少女は、初めて「パパ!」と声を上げて泣き出した。

 なぜ父親はたった3メートル後ろで娘が溺れているのに気付かず、15メートル離れた船の上にいた船長は気付いたのか。元ライフガードの筆者に言わせれば、こうしたことは決して珍しくない。

 たいていの場合、人が溺れるときは静かなものだ。テレビや映画で見るような大声で助けを求めたり、誰かに手を振ったり、派手にバシャバシャと音を立てることはめったにない。

 実際、水の事故は15歳以下の子供の事故死で2番目に多い原因(1番は交通事故)だが、その半数は親から約25メートル以内で起きるといわれている。
静かに溺れる5つの理由

 人間は溺れかけると、窒息しないように「本能的な水溺反応」と呼ばれる行動を取る。これを最初に提言したフランセスコ・A・ピア博士は、米沿岸警備隊の機関誌オン・シーンで次のように説明している。

1)ごくまれな場合を除き、溺れかけている人は助けを呼ぶことができない。呼吸器官は呼吸を最優先するようにできており、発声は二次的機能にすぎない。従って満足に呼吸ができないなら声は出せない。

2)溺れかけている人は、顔が水の上に出たり沈んだりを繰り返す。顔が水から出ている短い時間は、息を吐き、酸素を吸い込むのに精いっぱいで、声を出す前にまた沈んでしまう。

3)溺れかけている人は手を振って助けを求めることができない。人間は溺れかけると、本能的に両腕を水平に広げて水をかき、体のバランスを取ろうとする。そうすることで顔を水の上に出し、呼吸しようとするからだ。

4)溺れかけている人は自分で腕の動きをコントロールできない。水中でもがいている人がその動きを自分の意思でストップして、手を振ったり救援者のほうに移動したりするのは生理学的に不可能だ。

5)本能的な水溺反応を示している間、その人の体は水中で垂直の姿勢のままで、足は効果的なキックができない。このため溺れ始めてから20秒〜1分で体は水中に沈み始める。


 では、大声で助けを求めている人は放っておいても大丈夫かというと、そうとも限らない。ただ、この段階では水中で疲れ切っている状態なので、必ずしも溺れるわけではなく、自力で難を逃れられる場合もある。

 沖釣りやクルージングに出かけたとき、仲間が海に飛び込んで平気そうな顔をしていても、よく観察する必要がある。溺れかけているのに、そうは見えないことはよくある。ただ足をバタバタさせて船を見上げているようにしか見えないのだ。

 では溺れかけているのか、そうでないかを確かめる方法はあるのか。もちろんある。「大丈夫?」と声を掛けることだ。相手が答えられるなら、おそらく大丈夫。ぼんやりこちらを見ているだけなら、30秒以内に助け出す必要があるかもしれない。
 
 子供を海やプールに連れて行く親には、もっと分かりやすい方法がある。水遊びをしている子供はキャッキャと声を上げるもの。静かになったら要注意だ。面倒がらずに子供の近くに行って理由を確かめよう。

[2013年7月30日号掲載]

ニュース速報

ワールド

韓国の国連加盟停止提案、北朝鮮「まったく受け入れら

ワールド

移民政策真意伝わらず、トランプ氏「恐らく私のせい」

ビジネス

3月米利上げ確率35%、GDP改定値受け=短期金利

ビジネス

中国国家主席「金融不正、断固取り締まるべき」

MAGAZINE

特集:習近平vsトランプ

2017-3・ 7号(2/28発売)

「一つの中国」容認で矛を収めたかに見えるトランプだが、世界の新リーダーを目指す中国との貿易戦争は起きるのか

人気ランキング

  • 1

    身近な「サイコパス」から身を守るための知識

  • 2

    オスカー作品賞「誤」発表の大トラブル、その時何が起こったか

  • 3

    金正男氏の息子、キム・ハンソル氏と中国の動向――中国政府関係者を取材

  • 4

    パーフェクトな容姿に「変身」したイバンカ その品…

  • 5

    世界が共感するヌード写真家レン・ハン、突然の死を…

  • 6

    職場でハイヒール強要は違法にすべき? 英国下院で審…

  • 7

    アカデミー賞を取り損ねた名優、名子役、名監督......

  • 8

    金正男暗殺の謎 北朝鮮、従来の「工作作戦」と異な…

  • 9

    LCCが殺到! 関空が描く「アジアハブ」の野望

  • 10

    アカデミー賞逆転劇、スターたちの粋なリアクション

  • 1

    日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由

  • 2

    人類共通の目標に大きな一歩、NASAが地球と似た惑星を7つ発見

  • 3

    オルト・ライト(オルタナ右翼)の寵児、「小児性愛OK」発言で転落

  • 4

    金正男暗殺事件の毒薬はVXガス マレーシア警察が…

  • 5

    トランプはゴルフしすぎ、すでに税金11億円以上浪費

  • 6

    アメリカ流「餃子の作り方」に物申す⁉

  • 7

    金正男暗殺で、また注目される「女性工作員」

  • 8

    「ペンス大統領」の誕生まであと199日?

  • 9

    金正男氏を「暗殺者に売った」のは誰か

  • 10

    韓国外交部、釜山市らに慰安婦問題の「少女像」移転…

  • 1

    金正男氏を死に追いやった韓国誌「暴露スクープ」の中身

  • 2

    トランプを追い出す4つの選択肢──弾劾や軍事クーデターもあり

  • 3

    日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由

  • 4

    金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係…

  • 5

    日本でもAmazon Echo年内発売?既に業界は戦々恐々

  • 6

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 7

    マティス国防長官日韓訪問に中国衝撃!――「狂犬」の…

  • 8

    金正男クアラルンプール暗殺 北朝鮮は5年前から機…

  • 9

    トランプ、入国制限に反対の司法長官代行を1時間後…

  • 10

    トランプの人種差別政策が日本に向けられる日

グローバル人材を目指す

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「日本の新しいモノづくり」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 臨時増刊

世界がわかる国際情勢入門

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2017年2月
  • 2017年1月
  • 2016年12月
  • 2016年11月
  • 2016年10月
  • 2016年9月