最新記事

東南アジア

オバマが訪ねたもう一つの人権侵害国家

ミャンマー訪問と同じく、カンボジアの深い傷跡と人権弾圧の今に向き合った意味も大きい

2012年11月20日(火)17時32分
リジー・トメイ

未来志向 オバマは再選後の初外遊先に東南アジアを選んだ Jason Reed-Reuters

 大統領選の勝利後、初の外遊として東南アジアを駆け足でめぐったバラク・オバマ米大統領。19日には現職のアメリカ大統領として初めてミャンマー(ビルマ)を訪れ、テイン・セイン大統領や民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チー議員と会談した。

 人権弾圧などを理由に最近まで経済制裁の対象だったミャンマーへの歴史的訪問がニュースをにぎわせたが、その後オバマが東アジアサミット(EAS)とASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議に出席するためにカンボジアを訪れたことも、それと同じくらい重要な意味がある。

 オバマはカンボジアを訪れた初のアメリカ大統領だ。かつてアメリカが隣国ベトナムで起こした戦争がカンボジアにもたらした犠牲の大きさを考えれば遅過ぎた感は拭えない。ベトナム戦争終結から40年近くたつが、カンボジアでは今も、地雷や不発弾による負傷事故の発生率が世界で最高レベルにある。

 同時にオバマのカンボジア訪問は、ミャンマーと同じ人権と民主化上の課題を浮かび上がらせた。

 AP通信によれば、元軍人のカンボジアのフン・セン首相は、「アジアで最も権謀術数にたけた政治家の1人」とされている。フン・センが首相に就いているこの数十年、法的に正当と認められない殺人や、司法に対する政治的干渉がたびたび指摘されている。

緊張に満ちたフン・センとの対談

 首都プノンペンの人々はオバマ来訪を機に、アメリカからカンボジアの指導者に政策を変えるよう圧力をかけてほしいと訴えている。強制立ち退きを迫られている空港近くの住民は「自宅の屋根にSOSの文字をスプレーで書き、オバマ米大統領の写真を張り付けている」と、カンボジア・デイリーニュースは伝えた。

 カンボジアの野党指導者でフランス亡命中のサム・レンシーは、今月に入ってニュースサイト「グローバルポスト」が行った電話インタビューで、オバマの訪問が事実上、「フン・セン氏の政権による人権侵害」の承認にならないよう、アメリカの政治家に要請していると語っていた。

 カンボジアの年間予算の約半分が外国からの援助金だ。そこには、アメリカの納税者が収めた数千万ドルも含まれる。「アメリカは非常に重要な役割を担っていると思う。だから私は、オバマ大統領の訪問で何らかの変化があるのではないかと楽しみにしている」と、サム・レンシーは述べた。「オバマ大統領がカンボジアに行き、独裁主義の動きを見て見ぬふりするとは思わない」

 実際、オバマとフン・センの会談は緊張に満ちたものだったらしい。オバマは政治囚釈放や公正な選挙の実施を求め、人権侵害や政府による土地の強制収容をやめるよう圧力をかけたという。これをきっかけにカンボジアでもミャンマーのような改革が進むだろうか。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで急上昇、円買い介入と市場関係者

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明

ワールド

北朝鮮、「米が人権問題を政治利用」と非難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中