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貧困国発のうつ病クライシス

Rich or Poor, Depression Is a Growing Global Crisis

世界の鬱病患者3億5000万人以上の大半は、治療が行き届かない貧困国の人々だ

2012年10月12日(金)14時55分
デービッド・J・グレロッティ、ステファニー・スミス

 10月10日の世界精神保健デーで、今年のテーマとして掲げられたのが「鬱病:世界的危機」。鬱は先進国に特有の問題だと考える人々は驚いたかもしれない。しかしハイチやルワンダの田舎で活動する精神科医の私たちは、現実は違うことを知っている。

 貧困国の人々は鬱病で計り知れない苦痛を味わいながら、ほとんど助けを得られずにいる。WHO(世界保健機関)の発表では、鬱病を患う人は世界で3億5000万人以上。その大多数は情報が行き届かず、適切なメンタルケアを受けにくい地域に暮らす。しかし私たちが見てきたように、鬱病で長く苦しんできた人々の生活も安価で基本的な治療で改善することが可能だ。

 ハイチの田舎育ちのエマニュエラは初めて私たちに会ったとき、気分が落ち込むし、漂白剤を飲んで自殺することをよく考えると話していた。19歳の彼女はここ3年間ずっと、泣いたり、泣きたい気分で過ごしてきたという。食べものがあっても口にすることはめったにない。疎遠になった父親となんとか親子関係を築きたい、でも拒絶され続けている。そのことについて考え過ぎて、夜も眠れない。

 エマニュエラの鬱は深刻だが、アメリカで見られる鬱とそう変わらない。私たちの治療法も変わらない。彼女に共感し、説明し、症状は良くなること、治療するために私たちがここにいることを伝える。エマニュエラは私たちの医療チームのセラピーに参加し、抗鬱剤を服用しはじめた。すぐに気分は改善し、学校の成績も上がり、自殺願望もなくなった。

 私たちは貧困や紛争、彼女の生活の中のストレスを取り除いたわけではない。それでもエマニュエラは、鬱から来る深い悲しみなどに悩むことはなくなった。セラピーと服薬を続け、強くいられるようになった。

 地球の反対側のルワンダでも、同じような現実がある。ルワンダの山岳地域に住む19歳のシャンタルは躁病の状態で手錠をかけられたまま、私たちのもとへ連れられてきた。双極性障害の彼女は多くの例にもれず、鬱症状にも苦しんでいた。そして何年もの間、躁状態が起こす行動障害が続いており、家族からも孤立。結局、家から追い出されてしまった。

やがて鬱病が世界の活力を奪う主因に

 私たちは彼女に精神安定剤を処方し、通常の治療のほか地域密着のケアにも参加させた。現在、シャンタルは市場でマンゴーを売り、兄弟は彼女のために小さな小屋を建ててくれた(まだ屋根はないが)。治療の成功を見てシャンタルの家族は、最終的には彼女を自宅に呼び戻せるかもしれないと言っている。

 エマニュエラとシャンタルの病気は非常にありふれたものだ。同じような精神疾患は世界中の老若男女、金持ちにも貧乏にもみられる。鬱病は豊かさからくる病気でもなければ、貧困生活のせいでもない。生物学的、遺伝的、心理的、また社会的な要因に影響される複雑な病気だ。しかし治療によって貧困を固定化するような社会生活上の困難や病気のリスク、そのほかの問題を緩和できる。私たちの患者が絶好の実例だ。

 2030年までに、鬱は世界中の人々の活力を奪う主因になるとWHOは予測している。その負担は特に、深刻な精神疾患患者の75%が必要な治療を受けられない貧困国に重くのしかかる。ジェネリック医薬品や非専門家による心理療法が効果的で、費用効率も高いという証拠があるのにもかかわらず、鬱病患者の10人に1人しか治療を受けていない国々だ。

 私たち精神科医は地域密着型ケアや初期医療(プライマリーケア)を通じて、精神医療を身近なものにする方法見つけなければならない。精神疾患のある患者を見極めて治療できるように、地域の臨床医を訓練しなければならない。精神医療の悪いイメージを払しょくするため、自治体や地域のリーダーたちと協力する必要もある。

 社会の流れが変わり、患者がよくなっていく姿を私たちは見てきた。その変化を持続させるには人的・物的資源を注ぎ込むことが必要だ。そのコストより、何もしないことの代償のほうがずっと大きいことを私たちは知っている。


 デービッド・J・グレロッティは医療支援団体パートナーズ・イン・ヘルスに所属する精神科医で、ハーバード大学公衆衛生学大学院・精神疫学の主任研究員。ハイチとレソトで、精神衛生の臨床サービス・研究の実施を手助けしている。

 ステファニー・スミスはパートナーズ・イン・ヘルスの姉妹組織に所属する精神科医。ルワンダで、国内の精神医療サービスを統合する保険省の計画に協力している。


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