最新記事

対テロ戦争

パキスタンは裏切り者か、無能なだけか

ビンラディンを匿っていたと批判される一方、米軍の襲撃に加担していたフシもある「親米国」の多重基準

2011年5月10日(火)17時09分
HDS・グリーンウェイ

隠れ家 米軍の襲撃後、ビンラディンが潜んでいた建物を警備するパキスタン軍兵士 Faisal Mahmood -Reuters

 ウサマ・ビンラディン殺害後の混乱の中で、さまざまな疑問が浮上しているが、なかでも最大の謎は、パキスタンがどの時点で何を知ったのかという点だ。

 ビンラディン殺害の一報が伝えられ、バラク・オバマ米大統領がパキスタンの支援に謝意を表明したのを受けて、私はこの作戦にパキスタンが関与していたに違いないと考えた。アフガニスタンからパキスタンにヘリを飛ばせば撃墜される恐れがあるし、パキスタン政府の同意なしに襲撃作戦にゴーサインを出すのは、オバマにとって政治的・軍事的リスクがにあまりに高いからだ。

 だが私の予想は外れたようだ。アメリカ当局はビンラディン襲撃作戦を事前にパキスタン側に伝えなかったと語っており、パキスタン当局も反論していない。アメリカはパキスタンを信用しておらず、ビンラディンに襲撃情報が漏れるのを恐れたのだ。

 ニュースを聞いた私はさらに、パキスタン軍の士官学校が多数あるアボタバートにビンラディンが潜伏していたことを、パキスタンの治安当局が知らなかったはずがないとも感じた。この点については、今も自説が正しいと自信をもっている。

 一方で、パキスタンが「知っていた」説も根強い。ある報道では、アメリカがパキスタンに支援を要請し、実際に支援が行われたという。米軍ヘリが飛来していない段階で、パキスタン兵がビンラディンの潜伏先の周辺住民らに、屋内に留まり、電灯を消すよう命じたというのだ。

 パキスタンはアメリカにこんな風に伝えたのかもしれない。「パキスタン領内に入ってウサマを捕まえてかまわない。ただし、重大な国家主権の侵害行為だから、我々は何も知らなかったと言わせてもらう」

 だがその結果、パキスタン軍の評判は、襲撃作戦を事前に知らされ、米軍に協力していた場合以上に悪化しているように思える。パキスタンの対応は二枚舌か、無能か、あるいはその両方に見えるからだ。

一枚岩とは程遠いパキスタン当局

 パキスタンの治安当局の誰がビンラディンを匿っていたのかという点も厄介な問題だ。

 アメリカとパキスタンの間には、常に暗黙の了解があったようだ。パキスタンは国内に潜伏するアラブ系アルカイダを拘束するアメリカの努力に協力する一方で、パキスタン人アルカイダ要員の拘束には協力しない──。パキスタンの指導層に言わせれば、これは米軍撤退後のアフガニスタンの課題や、その課題を達成するために誰と手を組むかという問題に関して米パの見解が一致していないためだ。

 だが、パキスタンが意図的にビンラディンを匿っていたとすれば、話はまったく違ってくる。ビンラディンを匿うのはアメリカに対するあまりに重大な侮辱だ。アフガニスタンの未来に関する見解の相違のせいと片付けられる問題ではなく、パキスタンの立場を損ねるだけだ。

 もっとも、9.11テロ以前のCIA(米中央情報局)とFBI(米連邦捜査局)が緊密に連携していたとは言えなかったように、パキスタンの治安当局も一枚岩ではない。むしろアメリカ以上にバラバラにしか機能していない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中