最新記事

中東

リビアの次は「シリア危機」が勃発?

アサド大統領一家の支配が40年続くシリアで民主化運動が高まるなか、「リビア型」の抑圧的な政府の対応が示す不穏な展望

2011年3月28日(月)17時14分

プロパガンダ ダマスカス市街ではアサド大統領支持派のデモ行進が行われた(3月25日) Thaier al-Sudani-Reuters

 アラブ世界を揺さぶる民主化運動の波が、今度はシリアに飛び火している。反政府デモの高まりを受けて、シリア政府は3月23日に政治改革を進める意向を表明したが、デモ隊に対する武力弾圧が続く現状を見る限り、当局の対応はエジプトやチュニジアのような穏健路線ではなく、リビアやバーレーン、イエメンのような抑圧的な道を辿る可能性が高いようにみえる。

 25日には治安部隊が各地でデモ隊と衝突し、南部の都市ダルアで数十人が死亡したと報じられている。西部の主要港湾都市ラタキタでも反政府運動が盛り上がっており、当局は治安部隊に加えて軍も投入。すでに少なくとも10人以上のデモ参加者が死亡したという。

メディアへの締め付け緩和を発表したが

 民主化運動の高まりを受け、当局は食糧や燃料への補助金や公務員の給与引き上げ、兵役義務の軽減などの懐柔策を発表している。国民の間には、平和的な手段によってデモ隊の怒りを鎮めたいという与党・バース党の姿勢の表れだと期待する声もあったが、先週来の武力弾圧によってそんな望みは打ち砕かれたと、あるシリア人ジャーナリストは語った。

 政府の対応は矛盾に満ちている。政治犯を裁判なしで投獄できる非常事態法を解除する方針を固めた一方で、デモ隊を暴力で迎え撃ち、反体制派を逮捕し、衝突が起きた地域へのジャーナリストの進入を拒んでいる。

 メディアへの締め付けを緩和する方針も発表されたが、同時に報道の自由を脅かす行為も続いている。実際、シリアにおける報道の自由は極めて限られており、国際比較ランキングでも北朝鮮やビルマ、中国、イランと並んで底辺に位置づけられている。ブサイナ・シャーバン大統領顧問は先週、「真実を伝えているのはシリアのテレビ」だけであり、外国メディアは嘘を報じるのをやめるべきだと語った。

2011年はアラブ現代史の決定的な転換点

 治安部隊による武力行使は国民の怒りをあおり、反政府デモの参加者を増やすだけだろうと、首都ダマスカス在住の情報筋は語る。その傾向は既にチュニジアから広がった革命の嵐で証明されている。

 にもかかわらず、シリア当局は相変わらずのプロパガンダ戦略を続けている。25日はダマスカス市街でアサド大統領支持派のデモが行われ、車やトラックから身を乗り出した男たちが大統領支持の旗やバナーを振って、「アラーの神とシリアとバシャル(.・アサド大統領)、それがすべてだ」と歌っていた。

 アサドは国民の間で人気が高く、支持派のデモに個人的信念に基づいて参加した人もいただろう。しかし一方で、推定100万人といわれる秘密警察のメンバーも多数動員されていた。彼らはわずかな俸給をもらって友人や隣人の動向を当局に報告し、「自発的」な政府支持のデモ行進に定期的に参加する。

 一方、ダマスカスの中心部で反体制デモを企画した人々はあっという間に追い払われた。モスクでの金曜礼拝の最中に「自由を!」と叫んだ男性が、即座に車で連れ去られたという目撃情報もある。

 シリアでの一連の動きは、アラブ世界で進む大きな地殻変動の一環だ。その広がりは、もはや欧米諸国と親しい国だけにとどまらないようだ。恐怖による支配を続けてきた国はどこも、恐れを感じている。

「2011年はアラブ世界の現代史における決定的な年号の1つになるだろう」と、中東史に詳しいオクスフォード大学のユージン・ローガンは言う。「独裁支配が2011年中に消えることはないが、終わりの始まりではある」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾン、インディアナ州にデータセンター建設 11

ビジネス

マイクロソフト出資の米ルーブリック、初値は公開価格

ビジネス

東京都区部CPI4月は1.6%上昇、高校授業料無償

ワールド

北朝鮮の金総書記、25日に多連装ロケット砲の試射視
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中