最新記事

自動車

世界の武装ゲリラがトヨタを愛する理由

さすがトヨタと言うべきか、アフガニスタンからソマリアまで世界のゲリラの「武器」として愛用され続ける驚くべき耐久性

2010年11月19日(金)14時01分
ラビ・ソマイヤ

レジャー用なのに 紛争地でも交換部品がすぐ手に入るほど出回っている(アフガニスタンでゲリラ戦に備える米兵、02年) Paula Bronstein/Getty Images

 数年前、アフガニスタンでアメリカ軍と武装勢力の戦闘が激化し始めた頃、アメリカの対ゲリラ戦専門家デービッド・キルカランは、新しい模様のタトゥーを彫ったゲリラ兵がいることに気付いた。

 それは、イスラム原理主義組織タリバンを象徴するものでもなく、アフガニスタンを象徴するものですらない。そのタトゥーは、カナダ国旗のカエデの葉を描いたものだった。

 不思議に思って調べてみると、場違いなカエデの葉は、アフガニスタンと世界中のゲリラ戦で極めて重要な役割を果たしている(とキルカランが見なす)「武器」と関係があると判明したと言う。その武器とは、軽量で極めて頑丈なトヨタのピックアップトラック、ハイラックスである。

「(ハイラックスは)特にアフガニスタンで絶大な評価を受けている」と、キルカランは言う。そのためコピー商品が大量に市場に出回ったが、それを入手した武装勢力は品質の面で失望させられた。

 その後、「カナダ政府の提供した(本物の)ハイラックスがアフガニスタンに入ってきた」と、キルカランは説明する。「その車体の後ろには、小さなカナダ国旗が描かれていた。カナダ国旗の付いたハイラックスは非常に性能が良かったので......そのうちに、アフガニスタン全土でカナダ国旗が高品質のシンボルになった。こうして、ゲリラ兵たちがカエデの葉のタトゥーを入れ始めた」

 ハイラックスを愛用しているのは、アフガニスタンのゲリラだけではない。「世界中の至る所で用いられている」と、新米安全保障研究センターの研究員で元米陸軍特殊部隊員のアンドルー・エグザムは指摘する。「(世界の武装ゲリラの間で広く用いられている自動小銃の)AK47の車両版と言ってもいい」

 世界のゲリラ戦の歴史を写真で振り返ると、この車が紛争地帯でいかによく用いられているかがよく分かる。最初に写真に登場するのは60年代後半。新しいところでは、パキスタンの武装勢力がハイラックスに乗って銃を高く掲げている2000年の写真や、約20人のスーダンのゲリラが荷台で武器を掲げている04年の写真がある。ソマリアの海賊が首都モガディシオでハイラックスに乗って、銃を振り回している写真もある。

 これはあくまでも一部の例にすぎない。ニカラグア、エチオピア、ルワンダ、リベリア、コンゴ民主共和国、レバノン、イエメン、イラク......さまざまな紛争地帯で撮影された写真にハイラックスが写っている。一部地域ではアメリカの特殊部隊も、ハイラックスの大型版であるトヨタ・タコマに乗っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペイン首相が辞任の可能性示唆、妻の汚職疑惑巡り裁

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中