最新記事

アムトラック

米鉄道は先進国で最も危険

米議会が3月に安全装置の導入期限を延長していなければ、事故は防げた可能性も

2015年5月14日(木)15時03分
デービッド・シロタ

繰り返す事故 安全なはずの鉄道でどれだけ死者を出しても懲りないアメリカ Lucas Jackson-REUTERS

 米政府の運輸当局は昨年、アメリカの鉄道の安全性について、新技術を早急に導入しなければ、「ちょっとした人的ミスで惨事と隣り合わせの状態だ」と警告したばかりだった。これに先立つ2008年には、相次ぐ鉄道事故の調査結果を受けた米議会が、15年末までに脱線・衝突事故を防ぐ新技術の導入を鉄道会社に義務付ける「鉄道安全性改善法」を採択した。

 新法成立後の数年間に、全米で最も利用者が多い、ワシントンとボストンを結ぶ「北東回廊」の路線では事故防止の列車制御システム、PTC(Positive Train Controlの略)が導入された。しかしその後、超党派の議員団が15年までの導入期限を5年間延長する法案を提出、今年3月末に可決された。

 安全対策を先延ばしにしようとするこうした動きがなければ、首都ワシントンからニューヨークに向かうアムトラック(鉄道旅客輸送公社)の列車が脱線し、乗客243人のうち少なくとも7人が死亡した今回の事故は防げていたかもしれない。

 事故現場では今も調査が続いており、脱線の原因はまだ発表されていない。脱線した列車は、貨物列車の線路と通勤列車の線路が収束する「魔のカーブ」付近を走っていた。議会が導入先送りを認めたPTCには脱線防止の機能があり、米国家運輸安全委員会(NTSB)の当局者は13日、PTCが導入されていたら、今回の事故は「防げたはずだ」と無念さをにじませた。

 だが当のアムトラックは新法制定後、コストがかかり過ぎ、期限が厳し過ぎるとして、政府と議会に安全基準の見直しを訴え、ロビー活動を展開。導入期限を2020年まで延長させることに成功した。

 そもそも鉄道安全性改善法の制定を促したのは、それまでに繰り返された一連の重大事故だ。なかでも最大の惨事は、2008年にカリフォルニア州で起きた通勤列車と貨物列車の衝突事故で、25人が死亡、135人が負傷した。連邦の規制当局は、「列車の衝突、速度超過による脱線」などの事故を防ぐには、PTC導入は不可欠の措置だと判断した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中