最新記事

米中関係

誇大妄想? 中国の反米映像

アメリカが中国の転覆を狙っていると訴えるプロパガンダ映像が物語ること

2013年11月5日(火)16時33分
ベンジャミン・カールソン

悪の手先? 香港のアメリカ総領事館も「邪悪な意図を持つ組織」に位置付けられた Bobby Yip-Reuters

 アメリカでは選挙シーズンになると、中国の脅威を声高に叫ぶ政治家が出てきて、逆に「中国叩き」を批判されることも少なくない。中国はアメリカのパートナーであり、不信感よりも信頼を築く必要があると。

 実にまっとうな意見だが、不信感を煽る点ではお互いさま。中国でもいわゆる「アメリカ叩き」は珍しくない。最近の例の一つは、先ごろネットに流出したプロパガンダ映像だ。この90分近い映像は、中国政府をあらゆる面から追い詰め転覆させるために、アメリカが共産党やNGO団体、一般社会にまで入り込もうとしていると訴えている。

 映像の出所は中国の国防大学で、製作を手掛けたのは国防大学政治委員の劉亜洲(リュウ・ヤーチョウ)。冒頭は米議会とホワイトハウスの映像から始まリ、ソ連崩壊後の中国や他の共産主義国とアメリカの関係をたどりながら、その背後にある「邪悪な思惑」を描き出す。「中国を混乱に陥れる最善の策は深い関わりを築くことだと、アメリカのエリートたちは考えている」と、中国のある軍関係者は語る。

共産党の重要会議に向けた戦略

 フルブライト交流プログラムやフォード財団、人権擁護団体カーター・センターも、そんな邪悪な意図を隠し持つ組織と名指しされた。ノーベル賞平和賞を受賞した作家で人権活動家の劉暁波(リウ・シアオポー)や北京大学法学部の賀衛方(ホー・ウエイファン)教授も、アメリカの手先のように描かれている。

 香港で毎年6月に行われる天安門事件の犠牲者追悼集会「六四集会」など、大規模な集会や活動の背後にも英米総領事館の姿が見え隠れする、としている。

 最も懸念されるのは、米中間の軍事交流は「中国を混乱」させ「政治家を洗脳」するのが目的だとしている点だ。米国防総省は長年、中国との信頼関係を深め、危機的状況が勃発した際に事態を鎮静化するためのコミュニケーションのパイプを作るために、中国の軍関係者との交流を求めてきた。数カ月前には、中国の軍関係者10人がハワイやワシントンを訪れ、10月には国防総省の関係者が北京を訪れたばかりだ。

 今回の映像流出は冷戦的な思考が根強く残っていることを示すものだが、一方で中国国内の事情も関係しているかもしれない。11月9日から始まる共産党の重要な会議「三中全会」では、経済や税制の改革案が出される予定で、それに向けて影響力を強めたい勢力の思惑も働いていると、一部のアナリストはみる。「この映像は改革派に『安易に改革に動くとソ連の二の舞になるぞ』と警告しようとしている」と、ある専門家はアメリカに拠点を置く中国語メディアに語った。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中