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アメリカ社会

テキサス流、教育の殺し方

2010年5月27日(木)15時49分
エバン・スミス

合衆国の指図は受けない

 この州がかつて「テキサス共和国」として独立した歴史を忘れてはいけない。州観光局のキャッチフレーズにあるようにテキサスは「別の国」。旺盛な独立精神がテキサスっ子の最大の特徴だ。

 テキサス州とその住民はよそ者に従うのをよしとしない。行動を指図されることも、自らの運命や生活をコントロールする力を妨げられることも好まない。

 昨今、アメリカのメディアをにぎわすテキサス州の政治や政策はいずれもこうした精神が生み出したものだろう。昨年4月、テキサス州のリック・ペリー知事は草の根の保守派連合ティーパーティーの集会で、「連邦政府の干渉に対抗する最良の方策は合衆国からの脱退だ」と唱える一派と親しくしている姿をカメラに捉えられた。

 最近では、ペリーとグレッグ・アボット州司法長官が医療保険制度改革に反対し、州または人民に留保された権限を定める合衆国憲法修正第10条を持ち出した。アボットは改革反対派の州司法長官たちと共に連邦政府を提訴しようとしている。11月に実施されるテキサス州知事選の共和党予備選に出馬したデブラ・メディナは、連邦政府が成立させた法案が憲法違反だと考えた場合、法案を無効にする権利が州にはあると公言した。

 テキサス州が進める社会科カリキュラムの見直しは、テキサスを侵略するエリート層に対する「愛国者」の戦いと言える。誰が歴史的偉人で誰がそうでないか、われわれに指図するな。進化論や政教分離の正当性を疑問視するのは神から与えられた権利だから否定するな。われわれの、われらがテキサス例外主義の邪魔をするな──。

 だが言うまでもなく、怒りとその効果は別物だ。ペリーの合衆国脱退論は共和党支持者やティーパーティーに受けがいいが、政策的には何の結果も出していない。

自らの首を絞める保守派

 テキサス州が医療保険改革を拒否するのはおそらく不可能だし、メディナは州知事選の共和党予備選で3位にしかなれずに敗退した。州の財政赤字が2年以内に11億ドル以上に膨らむと見込まれるなか、保守派の間からも、連邦政府の補助金を断固拒否する姿勢を見直すべきだという声が上がっている。

 教育委員会が5月に行う最終票決も、これまでの騒ぎとは打って変わった地味な結果に終わるかもしれない。怒りは触媒の働きをするが、度が過ぎれば問題だ。3月の教育委員会選挙の予備選では、マクリロイともう1人の保守派メンバーが、委員会から政治色を払拭しようとする共和党穏健派の候補に敗れ、別の保守派委員も穏健派に席を奪われた。

 教育委員会には今後もテキサス例外主義が深く根を下ろしたままだろう。だがテキサスが「別の国」として歩み続けることができるのかどうかは分からない。

[2010年5月12日号掲載]

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