最新記事
台湾

台湾を威嚇する中国になぜかべったり、国民党は共産党の「トロイの木馬」

A CHINESE TROJAN HORSE

2024年5月25日(土)16時53分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
台湾

09年に北京を訪れた親中派の連戦(中央) ANDY WONGーPOOL/GETTY IMAGES

<台湾で民進党の頼清徳新総統が就任した途端、中国軍が周辺海域の軍事演習で威嚇を始めた。立法院で多数派の国民党・民衆党が強引に進める「改革法案」への反対デモも早速起きたが、そもそも「中国人ではない」台湾人有権者はなぜ国民党に投票するのか>

中国の積極的な膨張主義に直面し、アメリカは中国が対米防衛線とする第1列島線に沿って軍備を強化する「島嶼防衛」戦略を復活させている。中国が挑発する小競り合いは列島線のあちこちで起きているが、総攻撃の標的になるグラウンド・ゼロは台湾だ。台湾は地理的な中心であると同時に、鎖の中で最も弱い部分でもある。

台湾は1949年に蒋介石が中国共産党との内戦に敗れてこの島国に逃れて以降、ファシストの中国国民党(国民党)による一党支配が続いた。しかし、88年に党主席の李登輝が台湾生まれの「本省人」として初めて総統に就任すると、90年代以降は活気ある民主主義国家へと発展した。

国民党の熱心な支持基盤はこれに反発し、総統退任後に李を除名した。とはいえ、国民党の選挙の戦績はさほど悪くない。支えているのは中国から渡ってきた100万人以上の「外省人」とその子孫。彼らは台湾を故郷と見なさず、いつの日か「自分たちの中国」を取り戻すつもりだ。それがどんなに遠い未来でも、どんなに可能性が低くても。

しかし、その可能性がますます低くなるにつれて、国民党は蒋介石にさかのぼる激しい反共産主義から、戦略的な親中国共産党路線に舵を切った。

最初の変化は、李が除名された後、中国大陸ではなく台湾を本土と見なす「本土派」の大半が離党したことだ。75年に父・蒋介石から国民党を引き継いだ蒋経国はナショナリズムの台頭を目の当たりにし、よそから来た植民地主義は持続不可能だと見越し、李や蔡英文など台湾人の両親を持つ本省人を将来の指導者として育成した。

2000年に民主進歩党(民進党)が初めて政権交代を実現し、08年に国民党が政権を奪還。16年まで総統を務めた馬英九は中国人の両親を持つ外省人で、台湾の運命より自分の中国人としてのアイデンティティーを大切にする。馬の時代に中国は台湾で浸透工作の土台を築いた。

ただし、国民党の多くの政治家は、むしろカネという卑近な理由で親中派になった。1996~2000年に李の下で副総統を務め、李の失脚に貢献した連戦は、中国への投資を熱心に進めた。現在は大富豪として、台湾海峡をまたいで事業を展開している。アメリカの一流大学で博士号を取得した馬や連は、植民地精神の名残りと共産党のカネには勝てないようだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中