最新記事
世界のキーパーソン2024

「台湾独立のための現実的な働き手」台湾総統選の最右翼、頼清徳(ライ・チントー)の正体

LAI CHING-TE

2023年12月25日(月)11時30分
フレデリック・ケルター(ジャーナリスト)
ライ・チントー(頼清徳)

(写真中央が頼清徳) ANN WANGーREUTERS

<来年1月に迫る台湾総統選では民進党の頼清徳が優勢とみられるが、台湾総統のホワイトハウス訪問を望む彼には、中国はもちろんアメリカにも一定の懸念がある。 本誌「ISSUES 2024」特集より>

人呼んで「トラブルメーカー」。ただし、ここでの「人」は中国政府の要人や中国国営メディアを指す。

新年早々の1月13日に行われる台湾総統選に与党・民進党から立候補している頼清徳(ライ・チントー)副総統が、そう呼ばれるのには理由がある。

2017年に「台湾独立のための現実的な働き手」を自称したことがあるからだ。頼は今、各種の世論調査で支持率トップに立っている。

言うまでもないが、台湾の「再統一」を掲げる中国側にとって「独立」は絶対的な禁句。

だから台湾の有力者がこの語を口にするたび、中国政府は過敏なまでの反応を示す。

現職の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は民進党でも穏健派で、独立ではなく台湾海峡の「現状維持」を掲げているが、それでも中国政府からは嫌われている。

だが「トラブルメーカー」の頼は、少なくとも当初は独立派の急先鋒だった。

そして10〜17年に台南市長を務め、「善良な頼」と呼ばれる人気者になっていた。

それでも蔡の後継者に指名されてからは急進的な独立論を封じ、現政権の「現状維持」路線を踏襲する姿勢を見せている。

17年の発言についても弁明し、「台湾独立」の語は「台湾は中華人民共和国の一部ではない」という島民の総意を指すもので、「現実的な働き手」というのも中国の侵略から台湾の主権を守り抜くという以上の意味ではないとしている。

いずれにせよ、頼は選挙戦を有利に進めており、大陸寄りの国民党や台湾民衆党の候補は苦戦している。

もしも3回続けて総統選に敗れることになれば、さすがの国民党も大陸寄りの路線を見直さざるを得ないかもしれない。

中国側には好ましくない展開だが、実はアメリカも、決して手放しには喜べない。

いつかホワイトハウスに

そもそも米政府は「台湾海峡の現状維持」への支持を公式に表明しており、アメリカの現職大統領と台湾の現職総統が直接接触することは原則として避けてきた。

だから頼が23年7月に「いつか台湾総統がホワイトハウスに足を踏み入れることのできる日」が来ることを望むと発言したとき、アメリカ側は眉をひそめた。

この発言は、将来の対米関係に関する彼のビジョンの表明でもあった。

自身の副総統候補に駐米台北経済文化代表処代表(事実上の全権大使)の蕭美琴(シャオ・メイチン)を指名したのも、そのビジョンがあればこそだ。彼女は母がアメリカ人で英語に堪能、首都ワシントンの政界とのパイプも太い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中