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アメリカの強固な台湾支援を覆すかもしれない1つの要因

US RESOLVE

2024年1月19日(金)16時05分
ロバート・サッター(米ジョージ・ワシントン大学教授)
バイデン

バイデン米大統領の就任以降、G7やNATOまでアジアにおける中国の動きに懸念を示すようになった KEVIN WURMーREUTERS

<米中対立の中、台湾はアメリカの「3つの挑戦」においてますます重要性を増しており、バイデン政権の姿勢に変わりはない。ただし、懸念が1つある>

※本稿は総統選の結果が出る前に執筆された。

今回の台湾総統選は、台湾と中国、そしてアメリカの今後に幅広い影響を与えるとみられている。ただ、アメリカの台湾や中国に対する政策が、劇的に変わるとは考えにくい。アメリカにとっては、中国の攻勢に対抗することが最大級の外交課題となっており、そこで台湾が果たす役割が極めて重要になっているからだ。

それに台湾の新総統が誰になったとしても、中国に対して著しく挑発行為を取るとは思えない(※編集部注:民主進歩党〔民進党〕の頼清徳〔ライ・チントー〕副総統が勝利した)。何しろ台湾の有権者や政治家は、毎日のように中国の示威行為にさらされており、中国の軍事攻撃を招くような言動には断固反対している。新総統は、アメリカとの協力を続けて台湾の抑止力を高めたいはずだ。

一方、アメリカではトランプ前政権もバイデン政権も、中国の攻勢に対する防衛力を高めることを、国家安全保障と経済と統治の最優先課題に位置付けてきた。この方針については2大政党の分断が激しい米議会でも超党派の一致があり、世論とメディアも支持している。そしてこの取り組みで、台湾の果たす役割がこれまでになく大きくなっている。

バイデン政権は、国内を強化し、国外では同盟国を増やしてアメリカの影響力を高めるプロセスの第1段階を終えた。2021年に成立した1兆ドル規模のインフラ投資法などの大型法は、とりわけハイテク分野で中国との競争を強化する役割を果たしている。2022年には半導体技術の対中輸出が事実上禁止され、2023年には中国へのハイテク投資を制限する大統領令が発令された。

ウクライナ戦争で中国がロシアを支援していること、そして2022年8月のナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問したことに対して中国が強硬な反応を示したことは、アメリカの対中政策を一段と強化する役割を果たした。

バイデン政権は、もともとヨーロッパの軍事同盟であるNATOと、日本をはじめ、オーストラリアや韓国、ニュージーランドなどのアジア太平洋の大国との連携を強化した。今やG7とNATOまでも、中国がアジアの安全保障やテクノロジー、サプライチェーンに与える影響について懸念を示すようになっている。さらにバイデン政権は、韓国やフィリピンがクアッド(日米豪印戦略対話)と関係を強化するよう進めるなど、これまでにない安全保障協力体制を構築してきた。

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