最新記事
運動

更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果

Menopause and Weightlifting

2025年10月3日(金)19時29分
アタリー・レッドウッドブラウン(英ノッティンガム・トレント大学 スポーツパフォーマンス分析プログラム上級講師)、ジェニファー・ウィルソン(英ノッティンガム・トレント大学 運動・健康実践担当 上級指導員)
更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果

筋肉を鍛えれば骨粗鬆症やメタボも予防でき、心の健康にも役立つ GYORGY BARNA/SHUTTERSTOCK

<ホルモンの乱れによって、ホットフラッシュや関節痛、気分の落ち込み、代謝の低下など、さまざまなトラブルが現れる。こうした不調を和らげる有効な方法のひとつが「筋トレ」だ>

多くの女性が50歳前後で更年期を迎える。ホルモン分泌が不安定になり、ホットフラッシュや関節痛、気分の落ち込み、膣の乾燥など、さまざまな症状が出る。筋肉量の減少、骨密度や代謝の低下など体の変化を伴うこともある。

更年期のこうした変化を軽減して心身の健康を向上させるには、日頃の運動、特に筋トレが効果的だ。期待できる効果をいくつか紹介しよう。


①骨密度を高める

筋トレは筋肉だけでなく骨にも負荷をかける。実際、筋トレは骨組織の形成を促して骨密度を高めることが分かっている。

これは特に骨粗鬆症が心配な更年期後の女性にメリットがある。研究によれば、筋トレを定期的に行う女性は腰や背骨も含めて骨のミネラル成分の濃度が大幅に増加していた。骨密度が上がれば骨粗鬆症のリスク低下も期待できる。

②筋肉量を維持する

女性は加齢とともに筋肉量が減少して筋力が低下し、その結果、転倒や骨折、けがのリスクが高まる。こうした筋肉の衰えにも更年期が関係している可能性がある。

だが、研究によれば、筋トレは(女性を含む)高齢者の筋肉量や筋力の維持、さらには増加にも効果がある。更年期後の女性で日頃から筋トレを習慣にしている人は、ストレッチやモビリティワーク(柔軟性や関節の可動域を広げる運動)など他の運動をしている人に比べて筋肉量減少や筋力低下の可能性が低いという。

筋トレは更年期前の女性にも効果的との研究結果もある。更年期前の女性で2年間定期的に筋トレを行った人は、腹部の脂肪の増加が(ランニングやウオーキングなど)標準的な有酸素運動を行った人の約3分の1だったという。

③代謝を上げる

筋トレは脂肪を除く筋肉量を増やし、代謝を上げて安静時のエネルギー消費を増やす効果が期待できる。これは、ホルモンの変化によって代謝が低下し体脂肪が増える可能性のある更年期直前・直後の女性には特に重要だ。

newsweekjp20251002043549.jpg

自己流ややりすぎはNG、正しいフォームと自分に合ったペースで MDV EDWARDS/SHUTTERSTOCK

2019年に米スポーツ医学誌ジャーナル・オブ・ストレングス&コンディショニング・リサーチに掲載された研究によれば、更年期後の女性が12週間の筋トレのプログラムに参加したところ、太りすぎを抑制する効果のある安静時代謝率が大幅にアップした。

④気分を上げる

更年期の女性は鬱や不安など心の健康にも影響が出かねない。だが筋トレなどの運動は、鬱や不安の症状を減らすなど、心の健康についても多くのメリットが期待できる。

中年女性150人を対象にした別の研究では、参加者を2つのグループに分け、一方を有酸素運動と筋トレを組み合わせたプログラムに参加させ、もう一方には健康的なライフスタイルについてのカウンセリングだけを実施。その結果、トレーニングをしたグループのほうが気分や心の健康と幸福度が向上したという。

別の研究では、指定された筋トレを実施した高齢者は自尊心や気分や疲労感も改善。筋トレが生活の質(QOL、Quality of life)の向上にも役立つ可能性がうかがえる。更年期の女性でも同様の効果が期待できそうだ。

不眠やホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)に悩む女性はQOLの低下や気分の落ち込みにも悩まされかねない。筋トレは体温調節に効果的で、(ストレスを和らげる脳内物質)エンドルフィンの分泌を促すので、心の健康と幸福にもプラスになる可能性がある。

◇ ◇ ◇


こんなにメリットが多いなら早速トレーニングを始めたい──と思うかもしれないが、注意すべき点がいくつかある。

■資格のあるトレーナーに付いて始める

最初は資格のある個人トレーナーや専門のコーチに付くべきだ。そうすれば、正しいテクニックを身に付け、安全で効果的なプログラムを作成し、自分のレベルと目標に合ったペースで進められる。

■フォームに集中する

正しいフォームで行うことが(高齢者は特に)非常に重要だ。フォームが悪いとけがをするリスクが高まり、効果が得られない恐れがある。正しいやり方を身に付け、軽いウエートから始めて、心地よさと自信を感じるようになろう。鏡を使ったり、ワークアウトの様子を自撮りしたりすればフォームが確認できる。

■複合エクササイズから始める

数多くの筋肉を同時に動かすエクササイズは総合的な筋力アップに非常に効果がある。最初はスクワット、デッドリフト、ベンチプレスなどのエクササイズを週2~3回やってみよう。基本が身に付いたら、ショルダープレスやランジなど、どれか1つの筋肉に重点を置いたエクササイズや安定性を高めるワークを始めるといい。

■少しずつ進める

急ぎすぎはけがのもと。慣れて物足りなく感じるようになったら、少しずつウエートを増やしたりワークアウトの強度を上げたりしよう。

筋トレの習慣は更年期前後だけでなく高齢期にも心身の健康維持に役立つだろう。ただし、新しいプログラムを始める前に必ず医師や専門家に相談を。持病や不安がある人は特に注意が必要だ。

References

Going, S., Lohman, T., Houtkooper, L. et al. Effects of exercise on bone mineral density in calcium-replete postmenopausal women with and without hormone replacement therapy. Osteoporos Int 14, 637-643 (2003). DOI: 10.1007/s00198-003-1436-x

Barajas-Galindo, D.E., González Arnáiz, E., Ferrero Vicente, P., Ballesteros-Pomar, M.D. Effects of physical exercise in sarcopenia. A systematic review. Endocrinol Diabetes Nutr (Engl Ed). 2021 Mar;68(3):159-169. DOI: 10.1016/j.endien.2020.02.007. Epub 2021 Jun 11. PMID: 34167695.

Cadore, E.L., Casas-Herrero, A., Zambom-Ferraresi, F. et al. Multicomponent exercises including muscle power training enhance muscle mass, power output, and functional outcomes in institutionalized frail nonagenarians. AGE 36, 773-785 (2014). DOI: 10.1007/s11357-013-9586-z

Schmitz, K.H., Hannan, P.J., Stovitz, S.D., Bryan, C.J., Warren, M., Jensen, M.D., Strength training and adiposity in premenopausal women: Strong, Healthy, and Empowered study, The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 86, Issue 3, September 2007, Pages 566-572, DOI: 10.1093/ajcn/86.3.566

Fragala, M.S., Cadore, E.L., Dorgo, S., Izquierdo, M, Kraemer, W.J., Peterson, M.D., Ryan, E.D. Resistance Training for Older Adults: Position Statement From the National Strength and Conditioning Association. Journal of Strength and Conditioning Research 33(8):p 2019-2052, August 2019. DOI: 10.1519/JSC.0000000000003230

Aparicio, V.A., Flor-Alemany, M., Marín-Jiménez, N., Coll-Risco, I., Aranda, P. A 16-week concurrent exercise program improves emotional well-being and emotional distress in middle-aged women: the FLAMENCO project randomized controlled trial. Menopause. 2021 Mar 11;28(7):764-771. DOI: 10.1097/GME.0000000000001760. PMID: 33739319

Westcott, Wayne L. PhD. Resistance Training is Medicine: Effects of Strength Training on Health. Current Sports Medicine Reports 11(4):p 209-216, July/August 2012. DOI: 10.1249/JSR.0b013e31825dabb8


The Conversation

Athalie Redwood-Brown, Senior Lecturer in Performance Analysis of Sport, Nottingham Trent University

Jen Wilson, Senior Exercise and Health Practitioner, Nottingham Trent University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.



ニューズウィーク日本版 2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月7日号(9月30日発売)は「2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡」特集。投手復帰のシーズンも地区Vでプレーオフへ。アメリカが見た二刀流の復活劇

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


国立西洋美術館「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」鑑賞チケット2組4名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ支援船、イスラエル軍が残る1隻も拿捕

ビジネス

世界食糧価格指数、9月は下落 砂糖や乳製品が下落

ワールド

ドローン目撃で一時閉鎖、独ミュンヘン空港 州首相「

ビジネス

中銀、予期せぬ事態に備える必要=NY連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 6
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 7
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 8
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 9
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 5
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中