突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘

2025年3月28日(金)14時17分
木野 太良 (カメラマン)*PRESIDENT Onlineからの転載

タクシーが待てないから自転車に飛び乗った

いったん靴を脱いでしまうと、靴はもう履けなくなり、左足の靴を脱いだまま、踵でペダルを踏んで自転車でなんとか整形外科へ向かった。

普通はタクシーを呼ぶのだろうけれど、タクシーが到着する時間さえも、待っていられない激痛に変わっていた。痛みに耐えながら、病院までの距離も足をついて歩けそうにない。体重をかけない自転車なら、なんとか痛みを我慢しながらたどりつけそうだ。もう、人の目など気にしていられないくらいの痛みだったのだ。


整形外科の先生は、腫れた左足の小指の付け根を見て、すぐにこう言った。

「レントゲンも一応撮影してみるけれど、多分これ痛風かなー」と。

きっと僕のような痛風の発作症状で、内科でなく整形外科に来院する人は多いのだろう。

「え! 痛風???」

先生の口から、意外な病名が出て、面食らう。

「血液検査で尿酸の値を調べます。レントゲンも念のため撮影してみるけれど、これは痛風っぽい腫れ方だねー。とにかく血液を採取して帰ってください」

先生は、調べる前からほぼ確信を持っているような口振りでさえある。

「え⁉ 痛風?」

「そうだねー。お酒は飲みますか?」と先生。

「飲みます」
「どのくらい?」
「毎日、瓶ビールを1~2本くらいと、ワインや日本酒を少し」
「量はそんなに飲まないよね。見た目も痩せ型だけどね。プリン体って聞いたことない?」
「あの、プリンに含まれるやつですよね?」
「いや、レバーとか、魚卵とかに多いんだよ。心あたりない?」
「はあ。実は最近、レバーばかり食べてました。ビールと一緒に」

「じゃあそれだな。夏は多いんだよ。痛風の発作。今年みたいに暑いと、余計に汗かいて脱水気味になるでしょ。すると血が濃くなってね。いっぱい食べたプリン体は、尿からしか排出されないんですよ。まずは水いっぱい飲んでください。痛風はそれ以外に、痛みが引くのを待つしかないんです」

痛風は贅沢おじさんだけがなるものではない

ショックだった。自分はそんな病気とは無縁だと思っていた。痛風とは、脂ののったおじさんがなるものだと思っていた。これは偏見に満ち溢れた物言いだが、痛風とは、会社の経費などで毎週、寿司と、焼肉と、イタリアンと、たまにクラフトビールのお店をローテーションしているようなおじさんたちがなる病だと思っていた。

こちらも十二分なおじさんであるが、フリーランスのカメラマンとして生きていると、社会の枝葉末節でかろうじて生息しているような存在である。よって接待はゼロ。団体に所属した人が受診できる定期検診もゼロ。血液検査を最後にした時さえ覚えていない。

「体だけが唯一の資本」と、週に4回はプールで泳ぎ、体重はプールの体重計で計測し続け、20年間で増減はほぼなし。それが、自分は成人病などとは無縁なはずだという唯一の根拠で、ボクサーが見えない方向から来るパンチでノックダウンしてしまうのと同じように、病院での痛風宣告に、もろにショックを受けてしまったのだった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イランの報復攻撃にさらされるイスラエル、観光客4万

ビジネス

レアアース磁石確保に苦慮とフォードCEO=ブルーム

ワールド

カンボジア、タイとの国境紛争で国際司法裁判所に解決

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕と報道 標的リスト
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中