アジア作品初のトニー賞6冠! ミュージカル『Maybe Happy Ending』に見る韓国コンテンツ世界的ヒットの法則
クリエイター・コンビが描くユニークな世界
『Maybe Happy Ending』の成功の立役者は、作詞・共同脚本のパク・チョンヒュと作曲のウィル・アロンソンからなるクリエイティブ・チームである。彼らは「ウィルヒュ・コンビ」とも呼ばれ、その協業が作品の普遍的な魅力の源泉となっている。
ウィル・アロンソンは、アメリカ出身の劇作家兼ミュージカル作曲家だ。ハーバード大学で音楽を専攻し、ニューヨーク大学大学院でミュージカル劇作の修士号を取得している。彼は『Maybe Happy Ending』の他にも、パク・チョンヒュとのコンビで『バンジージャンプをする』『イル・テノーレ』『ゴースト・ベーカリー』など多数の韓国ミュージカルの楽曲を手がけているほか、米国では『Pete the Cat』や『Mother, Me & the Monsters』などの作品も発表しており、チャ・ボムソク戯曲賞、フルブライト奨学金、ASCAPフレデリック・ローブ賞、そして4つの韓国ミュージカルアワードなど、数々の栄誉に輝いている。多様な文化背景をもつ彼が、韓国とアメリカの架け橋となり、韓国ミュージカルのグローバル展開に大きく貢献していることがわかる。
一方、パク・チョンヒュは、韓国からアメリカにビジュアルアートを学ぶために渡った経験をもつ作詞家・脚本家である。彼の感性とウィル・アロンソンの作曲が融合することで、『Maybe Happy Ending』の独自の叙情性と普遍的なテーマが確立された。二人の共同作業は、単なる友人関係から始まり、「今すぐ大金を稼ぐより、私たちがしたいことをしようという価値観が似ている」ことから自然に創作パートナーとしての関係性を築いてきたという。彼らは「良い音楽、映画、小説などを一緒に共有しながら討論」することで、互いに芸術的・文化的な影響を与え合ってきたそうだ
彼らの作品世界は、パク・チョンヒュが語る「韓国を背景にしているが、あまり日常的ではない、少し違和感がある情緒」という点に特徴がある。パク・チョンヒュは「韓国を背景にすることがとても重要」だとしつつも、その情緒は「妙にどこか西洋文化と韓国文化が混ざったような感じ」を観客に与える。ウィル・アロンソンもまた「近未来や1930年代、1970年代など、ちょっと変わった背景の話を書くのが好きで、私たちの目標でもある」と述べている。この「身近でない、今の環境とちょっと違うところに行って、結局は今の現実に戻らせる」という手法は、『オズの魔法使い』以来の「身近なものの中に隠された幸せを再発見する」というストーリーテリングの王道だ。近未来の韓国、済州を背景にした『Maybe Happy Ending』、日本による植民地時代の京城を背景にオペラを題材にした『イル・テノーレ』、そして1970年代のソウルを背景にした新作『ゴースト・ベーカリー』が、彼らのこうした創作哲学を体現している
また、二人の「音楽愛」も作品に深く影響している。『Maybe Happy Ending』では、ジャズというジャンルが重要であり、ジャズバンドでの経験があるウィル・アロンソンと、ジャズを愛するパク・チョンヒュの共通の情熱が、主人公オリバーの設定や楽曲に溶け込んだ。特にロックバンド・ブラーのデーモン・アルバーンのソロ曲「Everyday Robots」からインスピレーションを受け、「人間的な話をロボットを主人公にしたらどうかな」というアイデアが生まれたという。これは、ウィル・アロンソンが好む「ミュージカル的にも音楽的にも特別でユニークなジャンルを作り出すこと」にも当てはまり、彼らが単なる音楽だけでなく、物語やキャラクターに観客を引き込む「ユニークな世界」を創造しようとしていることを示している