アジア作品初のトニー賞6冠! ミュージカル『Maybe Happy Ending』に見る韓国コンテンツ世界的ヒットの法則
ブロードウェイでの成功と歴史的快挙
『Maybe Happy Ending』がブロードウェイに進出した際、その制作アプローチは、韓国コンテンツビジネスの成熟と変化を明確に示した。単に韓国語版を英語に翻訳するだけでなく、ウィル・アロンソンとパク・チョンヒュは、アメリカの舞台のために再びクリエーション活動を行った。この協業は、それぞれの言語と文化のニュアンスを尊重しながら、普遍的な物語を構築する努力であり、まさに「上演される国に合わせる」という戦略が結実した好例と言えるだろう
これは、舞台設定をそのまま維持しつつも、主演俳優に韓国系ではないダレン・クリスを起用することで、普遍的なテーマをより幅広い観客層に届けるという戦略的な選択を示している。テレビドラマ『glee/グリー』のブレイン・アンダーソン役で知られるダレン・クリスは、本作ではトニー賞の主演男優賞にノミネートされ、ブロードウェイの観客に作品の魅力を最大限に伝えた。このアプローチは、特定の文化に固執するのではなく、作品のもつ本質的なメッセージとエンターテインメント性を最優先し、現地の市場に最適化された形で提示する、韓国コンテンツビジネスの成熟した姿勢を象徴している
一方でオリジナル版の設定にこだわったところもある。特筆すべきは、ブロードウェイ版においても物語の舞台設定は韓国のままであったことだ。パク・チョンヒュは「ブロードウェイプロダクションの設定も同じだ。韓国の近未来を背景にしており、オリバーのかつての主人であるジェームズも韓国人だ」と明言している
また、舞台の規模拡大に伴う演出変更も行われた。パク・チョンヒュは「舞台が少し大きくなったので、もっと未来的に感じられるだろう」と述べた。さらに、ブロードウェイ版では、韓国版でジェームズが兼任していたジャズ歌手の役を分離するなど、音楽的にも4曲程度が変更されているという。これらの微調整は、現地での受容性を高めるための具体的な工夫であった
ブロードウェイでの初演は、ニューヨークのベラスコ劇場で2024年11月に開幕し、地元の観客から熱狂的な支持を受け、公演期間が2026年1月17日まで延長されるほどの人気を博した。そして、第78回トニー賞では、作品賞を含む6部門で受賞するという快挙を達成した。特に、韓国人クリエイターであるパク・チョンヒュ(共同脚本・作詞)の貢献によって、アジアで創作された作品が作品賞、脚本賞、音楽賞という主要部門を受賞したことは、トニー賞の歴史上初の画期的な出来事だった。これまでにもアジアを舞台にした作品や、アジア系の俳優がトニー賞を受賞した例はあったものの、アジアで生まれ、アジア人クリエイターが主要な創作部門でトニー賞を受賞した作品は韓国に限らず初めてのことで、エンターテインメントの世界に新たな歴史を刻んだといえるだろう