最新記事
文学

ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を助けている」 ソウル市などの図書館は異例の「特別赦免」を実施

2024年12月10日(火)21時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

光州は一つの都市ではなく普通名詞になる

「その時期に私が思い出したりした2つの質問がある。『現在が過去を助けることができるのか?』『生きている者が死者を救うことができるのか?』。この小説をこれ以上書くことができないとほとんどあきらめた時、ある若い夜学教師の日記を読んだ。 1980年5月、軍人たちが戻ってくると予告された夜明けまで道庁のそばのYWCAに残っていて殺害されたパク·ヨンジュンは最後の夜にこのように書いた。『神様、どうして私には良心があってこんなに私を刺して痛くするのですか。私は生きたいです』」

「この小説がどちらに行くべきか雷のように分かった。二つの質問をこのように逆にひっくり返すべきだということにも気づいた。『過去が現在を助けることができるのか?』『死んだ者が生きている者を救うことができるのか?』。以後、この小説を書く間、実際に過去が現在を助けていると、死んだ者が生きている者を助けていると感じた瞬間があった」

「人間の残酷性と尊厳が極限の形で同時に存在した時、空間を光州と呼ぶ時、光州は一つの都市を指す固有名詞ではなく普通名詞になるということを私はこの本を書いている間に知った。時間と空間を渡り、私たちに戻ってくる現在形だ」

ハン・ガンは、さらに前に進むという覚悟も明らかにした。自らを「書く人」と命名した彼女は「まだ私は次の小説を完成できずにいる」と打ち明け、「とにかく私はゆっくりとでも書き続ける。今まで書いた本を後にしてもっと前に進むつもりだ。いつの間にか角を曲がってこれ以上過去の本が見えないほど、人生が許す限り最も遠く」と話した。

講演の最後にハンガンは読者に向けて次のようなメッセージを贈った。

「私が感じるその生々しい感覚を電流のように文章に吹き込もうとし、その電流が読む人々に伝わることを感じる時は驚き感動する。言語が私たちをつなぐ糸だということを実感する。その糸につながってくれるすべての方々に心から感謝の言葉を申し上げます」

図書館が「赦免措置」を実施

ノーベル賞の贈呈式が行われる10日、韓国ではハン・ガンのノーベル文学賞受賞を祝うイベントなどが開かれた。彼女が生まれ育った光州市のある全羅南道では、10日午後4時、全羅南道立美術館で道民祝賀行事を開催したほか、道立図書館では、本を借りる道民124人にバラの花を一輪ずつプレゼントした。また全南道立図書館を含む全南道75カ所の公共図書館では授賞式当日の10日から31日まで「図書延滞特別解除」が行われる。これは過去に返却遅延で貸出禁止となった人に、再度貸出を行うようにする措置だ。

ソウル市も10日にソウル図書館で「2024世界ノーベル文学祭」を開催した。午後2時から8時までわたって行われたイベントでは、俳優のユ·ソンがハン・ガンの代表小説「菜食主義者」などを朗読したほか、文学評論家のカン·ジヒ、詩人のソン·ギワン、ソウル大学独文学科教授ホン·ジンホなどがノーベル文学賞の過去、現在、未来をテーマにした講演やブックトークを行った。

また全羅南道と同様に、ソウル図書館などソウル市の公共図書館232カ所で貸出制限の赦免を行った。ソウルでは約10万人が「赦免」の恩恵を受けるとされており、対象者は11日からソウル図書館および管内の公共図書館の貸出サービスを再び正常に利用できるという。

日本企業
変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本のスタートアップ支援に乗り出した理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ニコンが社長交代、大村CTOが昇格 徳成氏は会長に

ワールド

米FTC、アップルニュースの左派系記事優遇巡る疑惑

ワールド

欧州産業界、エネルギー価格引き下げ要求 EUに緊急

ワールド

北朝鮮、金正恩氏の娘が後継者となる方向 政策関与の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 7
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中