最新記事
小澤征爾

独占インタビュー:師弟関係にあった佐渡裕が語る、「小澤先生が教えてくれたこと」

A Tribute to My Maestro

2024年3月2日(土)11時48分
佐渡 裕(指揮者)

240305p28_SDI_01.jpg

2009年1月、ウィーン楽友協会ホールで伝統的なウィーン・フィル舞踏会を指揮する小澤 AP/AFLO

大学を出て26歳になった私は、とにかく棒を振って飯を食っていくというのが最大の目標でした。しかし、名古屋フィルの副指揮者のオーディションに出願したものの、2度とも最後まで残って落選。そんなときに、ボストン交響楽団が夏の活動拠点にしている「タングルウッド音楽祭」のオーディションに応募したのです。

どこかで海外に出たいという気持ちはありました。「宝くじは買わないと当たらないし」という軽い気持ちで書類を出したんです。しかし私は大学ではフルート専攻で、有名な指揮の先生に師事していたわけでもない。普通の方法ではとても書類選考で目に留まらないだろうと、ドボルザーク「交響曲第8番」を大阪大学の学生オケで指揮した際のリハーサルのビデオを、書類に同封して送りました。

ところがこれが吉と出た。当時はビデオはまだ普及していなかったので、タングルウッドの事務局長が珍しがったんですね。妙な日本人がいる、これはセイジに見せなきゃ、と思ったらしいんです。小澤先生がヨーロッパから空港に着いたばかりのところへ事務局長がビデオプレーヤーを持参し、その場でそのビデオを小澤先生に見せた。それで、こいつは面白い、採ろう、ということになったようです。

楽屋で聞いた言葉に号泣

とはいえ、ここに集まってくるのはコンクールの優勝経験者や私より若い連中がいっぱいいる。とても最後まで残れるとは思っていませんでした。奨学金をもらえるフェローシップに入れるのは3人から4人、応募してくるのは何百という単位です。

ところが1次、2次審査とポンポンと通過し、最終審査はボストン・シンフォニー・ホールで小澤先生の前でストラビンスキーの「兵士の物語」を振りました。

頻繁に拍子が変わる曲なんですが、私のハッタリをかます性格がこの大事な本番で強烈に出てしまいました。あの小澤征爾の前で指揮できるというので、楽譜を持っていかず、暗譜で振ったんです。

しかし、見事に振り間違えた。

ばかだなあ、俺......と、演奏終了後、楽屋で落ち込んでいました。すると、小澤先生がフラッと楽屋に入ってこられて、こうおっしゃった。

「あんた、面白いっすよ」

私は不覚にも号泣してしまいました。悔しさと、うれしさの入り交じったような気持ちです。もう少し何か話をした気がしますが、その言葉以外は覚えていません。

結局最終審査に合格し、6週間にわたるキャンプが始まりました。小澤先生や(レナード・)バーンスタインから直接指導を受けられることになったのです。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中