最新記事

AI

ハリウッドスターがストを行っているのはなぜ? AIの「合成俳優」に揺れる米エンタメ界、エキストラをコピペで複製!?

2023年7月29日(土)12時42分

デジタルレプリカ

制作側と俳優側の意見が対立しているもう1つの問題は、エキストラのデジタルレプリカ(複製)作成だ。制作業界団体の全米映画テレビ制作者協会(AMPTP)は、ある作品に出演したエキストラ俳優のデジタルレプリカをその作品以外に使用する許可を、当該俳優から得ようとしている。

デジタルレプリカの使用料は俳優と協議し、SAG-AFTRAとの合意で定められた最低限のエキストラ使用人数に違反しない範囲でこうしたデジタルレプリカを活用する考えとされる。

しかしSAG-AFTRAは、制作側が受け入れているのはあくまで当初起用時に承諾を得ることで、これは追加報酬という考え方に反すると異を唱えている。

クラブツリー・アイルランド氏は「実際に意味するのはこれらの制作会社がエキストラ俳優に『われわれの要求に応じないならあなたは雇わず、別の誰かで補充する』と伝えることだ。それでは意義のある同意にはならない」と指摘した。

制作側はまた、3Dボディスキャンで俳優の姿形を取り込むという長年の慣行を継続し、AIによるデジタルレプリカ生成に妥当性を持たせようとしている。つまりこれは撮影終了後の編集などの「ポストプロダクション」作業において、俳優の顔を正確に置き換えたり、画面上の「替え玉」を生み出したりするために使われるとみられる。

こうした作業で制作側は俳優の同意を得た上で、レプリカ使用に際して個別の話し合いに応じると約束している。

クラブツリー・アイルランド氏は、もちろん適切な同意や報酬が確立されるならばこの作業は可能だと述べた上で、組合にとっての懸案は将来の作品のためにデジタルレプリカの権利を保持し、俳優の実効的なバーチャル肖像権を手に入れることだと強調した。

制作側も新たな権利を確保したがっている。それはポストプロダクション作業でキャラクターや脚本、監督の構想に沿った形でデジタル技術を駆使して演技内容を変更するという権利だ。具体的には台詞の1つか2つを置き換える、あるいはデジタル衣装を素早く切り替えるなどで、撮り直しのコストを何十万ドルも節約できるという。

そのため通常のポストプロダクションでは収まらない修正作業を俳優側も受け入れてほしい、と制作側は提案している。

ただSAG-AFTRAは、それはAIの過剰行使だと反発。俳優の肖像や姿形、声の変更に事前の許可を求める構えだ。

(Dawn Chmielewski記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ中、ガス輸送管「シベリアの力2」で近い将来に契約

ビジネス

米テスラ、自動運転システム開発で中国データの活用計

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中