最新記事

反田恭平現象

佐渡裕が語る、ピアニスト反田恭平の魅力と世界への道のり

Onward to the World

2023年7月6日(木)11時50分
佐渡裕(指揮者)
佐渡裕

ヨーロッパの名門オーケストラを何度も指揮してきた佐渡 @TAKASHI IIJIMA

<「ほかのピアニストとは明らかに違う音色を奏でている」――国内外で同じステージに立ち指揮をしてきた佐渡裕にしか語れない、反田恭平の真価とは。本誌「反田恭平現象」特集より>

日本でいま「最もチケットの取れないピアニスト」である反田恭平、28歳。2021年のショパン国際ピアノコンクールで2位に輝いた反田は、なぜこんなにも観客を熱狂させるのか。

本誌7月11日号(7月4日発売)では、「反田恭平現象」を全20ページで特集。2017年の初共演以来、国内外のコンサートで同じステージに立ってきた指揮者の佐渡裕が本誌のインタビューに答え、反田の評価を語ってくれた。

◇ ◇ ◇


反田君は、ピアニストとして圧倒的な技術力を持っている。繊細な感受性を働かせながら、一音一音を大事にする。その音色が人を惹き付け、人の心を激しく感動させるのだ。

演奏中の舞台で、僕と反田君は直接言葉を交わしているわけではない。なのに、まるで超能力者のようにお互い言いたいことを分かり合えている。なぜ心が通じ合うのか。反田君が音楽の法則を分かっているからだ。

水は必ず高い所から低い所へ流れる。重力に反して、水が下から上に流れることはない。大雨が降って小川にたくさんの水が流れ込めば、激しい急流となる。幅広い川の流れはたいてい穏やかだ。自然界にこうした法則があるように、音楽の世界にも目に見えない法則がある。

その法則を、ショパンやラフマニノフといった音楽家は譜面に記録してきた。記号によって記録された音楽の法則の意味合いを、反田君は驚くほど正確に熟知している。

ただ単にミスタッチを全くせず、まるでサーカスやマジシャンのように超絶技巧で弾くピアニストであれば、今のような異様な人気は出なかったであろう。

音楽の法則に見事に乗っかり、音楽家が言わんとした音色を見事に奏でる。彼が弾くピアノはあまりにも心地良い。ほかのピアニストとは明らかに違う音色を奏でているから、反田恭平は聴く者の心を離さないのだ。

コロナ禍の昨年5月から6月にかけて、反田君と一緒に全国ツアーを回った。新日本フィルハーモニー交響楽団と一緒に彼が弾いたピアノ協奏曲は、ベートーベンの「皇帝」だ。

合計13回の本番を振り返ると、反田君がミスタッチをした記憶はほとんどない。「自分はできる」という圧倒的な自信があるだけでなく、本番までに練習を重ねて完璧に仕上げてくる。なおかつ「ゾーン」に入った状態で最終日まで緊張感を途切れさせない。驚くべき集中力だ。

アンコールの曲も毎回変えてきており、観客へのサービス精神も怠らない。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ポーランドのトゥスク首相に脅迫、スロバキア首相暗殺

ビジネス

フォード、EV収益性改善に向けサプライヤーにコスト

ワールド

米、大麻規制緩和案を発表 医療用など使用拡大も

ビジネス

資本への悪影響など考えBBVAの買収提案を拒否=サ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中