最新記事
映画

小さな貝の大きな冒険に子供も大人もキュン!映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』

A Film Like No Other

2023年6月30日(金)14時10分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』

マルセルは祖母と一緒に空き家を「改造」して、静かな日々を送っていた ©2021 MARCEL THE MOVIE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

<YouTubeでバズった動画から生まれた、唯一無二の心温まる実写+ストップモーションアニメ>

マルセルは、2010年にYouTubeに投稿された短編のストップモーションアニメで大いにバズった小さな貝。人間の男の子のように、か細い声でたどたどしく話す。

「コメディアンで女優のジェニー・スレートが声を担当するキャラクター」という言い方はちょっと違う。マルセルはスレートの声そのもの。声のほうが先に生まれた。

スレートは、当時彼氏で、その後に夫となったディーン・フライシャー・キャンプを笑わせようと、この声でしゃべってみせたのだ。それを聞いてフライシャー・キャンプは工芸店に行き6ドルで材料を買い集めた。2.5センチの貝殻、ポリマー粘土の土台付きの目玉1個、プラスチックの赤い人形の靴。これらを組み合わせてスレートの声にぴったりのキャラクターを作った。

この愛すべき小さな貝を主人公に、フライシャー・キャンプは超低予算の短編アニメを3本撮り、YouTubeで公開。これが話題を呼んで絵本出版の話が舞い込み、11年と14年にスレートとの共作で2作を世に出した(どちらもベストセラーになった)。

2人は16年に離婚。だが再度クリエーターとしてコンビを組み、長編アニメ映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』を完成させた。

【動画】映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』予告編

長編映画にするために、2人はマルセルの物語に新たな背景を加えた。映画版のマルセルは祖母のナナ・コニー(イザベラ・ロッセリーニの声が素晴らしい)と暮らしていて、常識的に考えれば「絶対できっこない」試みにチャレンジする。

マルセルたちが暮らしている家には以前カップルが住んでいたが、けんか別れして2人とも出て行った。その家を借りて引っ越してきたのがプロの映画作家を目指すディーンだ(フライシャー・キャンプ自身が演じる)。

揺れる思いを繊細に表現

ディーンは先住のマルセルたちと仲良くなり、小さな貝から見た世界に興味を覚えて、マルセルの世界観をテーマにドキュメンタリー映画を撮りたいと申し出る。そしてカメラを手にマルセルと祖母を追ううちに悲しい事情を知ることになる。貝の一族が大勢いたこの家に、なぜ彼らだけが残されたのか......。

映画の最初の約3分の1は、ディーンが観客に代わって家の中を見て回るシーンが中心だ。マルセルと祖母は自分たちが暮らしやすいように、この家にちょっとした「改造」を加えていた。マルセルは工夫の天才で、とても誇らしげに発明品を披露する。人間が残していったスニーカーをロープにくくり付けて作った空中滑走できる仕掛け、テニスボールの中身をくりぬいて作った転がる「自動車」......。

対談
為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 セカンドキャリアの前に「考えるべき」こととは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中