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なぜネコ科の動物でライオンだけが群れを作る? メス達の欲求に応えないオスは追放、20秒の交尾を毎日50回1週間も繰り返す

2023年6月27日(火)20時05分
田島 木綿子(国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹) *PRESIDENT Onlineからの転載

近年、南アフリカ共和国の南部から東部の標高1000メートル以上の環境に棲息する個体群ではたてがみが発達する傾向があるのに対し、ケニアやモザンビーク北部にかけての熱帯地域に棲息する個体群ではたてがみはあまり発達せず、たてがみのない個体も見られるという。これまでは、生息域によってオスライオンのたてがみの発達に差があることは明確になっていなかった。

考えてみれば、ライオンの棲息地で気温が上昇し続けると、たてがみはたとえるなら真夏にマフラーを巻くようなもの。哺乳類である以上、体温維持は繁殖戦略よりも優先せざるを得ないため、温暖化が続けば、近い将来、たてがみのない百獣の王が主流となってしまうかもしれない。

近親交配を避けるためライオンの群れではオスが少数派に

通常、ライオンは1~3頭のオスと10頭前後のメス、そしてその子どもたちで「プライド」と呼ばれる群れをつくって暮らす。ライオンも母系社会で、プライド(以下、群れ)の中で生まれた子どものうち、メスはそのまま群れに留まるのに対し、オスは2~3歳になると群れを追われる。

複数のオスが留まると、親族同士で交尾を繰り返すことで遺伝的多様性がなくなり、生存能力の強い子孫を残すうえで不利となるからだ。

群れを離れたオスは、単独で放浪するものもあるが、多くは成熟するまで兄弟や従兄弟などオス同士で行動を共にし、狩りのやり方や闘い方などを修得し、やがて新しい群れを見つけると、単独または2~3頭で襲撃し、乗っ取りを図るようになる。

既存の群れにはたいていリーダーオスがいるので、闘いに負けると命を落とすリスクもある。そのため、若いオスライオンも無謀な賭けには出ない。前述したように、オスの強さはたてがみの色や量が重要な目安となる。

黒いふさふさのたてがみをもつオスのいる群れは避け、ちょっと年老いていたり、たてがみが貧相なリーダーの群れを見つけ、1~3頭のオスで狙い撃ちする場合が多いと考えられる。

若いオスたちが群れを乗っ取るとまず子ライオンを殺す

若いオスたちは、自分たちのたてがみの色や量を見せつけることで、余計な争いをせずに、既存のオスを追い払える可能性も高く、闘うことになった際にも、たてがみの量が多いほど急所である頭や首回りを保護することもできる。

晴れて既存のオスを追い払うことに成功すると、若いオスたちはその群れのリーダーとなり、無条件で群れのメスを自分たちのものにできる。群れを乗っ取ったオスたちが真っ先に行うのは、前のオスの子どもを皆殺しにすることである。なんとも非情な行為に見えるかもしれないが、育児中のメスは発情しないため、自分の子孫を残すためには必要な行為なのである。

さらに、群れのオスはエサを得るための狩りには参加しない。大型の獲物を一撃で倒せるほどの長い犬歯と強力な顎をもっているにも関わらず、狩りは基本的にメスだけで行い、メスが仕留めた獲物をオスが優先的に食べるという亭主関白振りがひどい。

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