最新記事

発達障害

「普通の父親」になれなかった僕が、妻と娘と生きていくために受け入れた役回り

2022年8月6日(土)09時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

娘は絶望した著者を幾度となく人生に引き留めた(写真はイメージです) Hakase_-iStock

<「家族を守る」ことはできなかったけれど、妻と娘との「具体的な関係を守る」ことならできるかもしれない。ADHD・ASD当事者の育児ドキュメンタリー『僕は死なない子育てをする 発達障害と家族の物語』より一部抜粋して紹介する>

「普通」であろうと無理を重ね、裏目に出る。外見からわからないだけに誤解されることも多い発達障害だが、その特性ゆえに多くの当事者が社会生活に難しさを抱えている。

7月に『僕は死なない子育てをする 発達障害と家族の物語』(創元社)を上梓したライターの遠藤光太氏は会社員時代、「自分が電話を受けなければ」とオフィスで緊張し、家庭では「強くあるべき」「稼ぎ頭であるべき」という父親像に縛られていたという。背伸びし続けた結果、20代で鬱病と休職を繰り返すことになった。

本書は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)とASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けた著者が特性の理解を通じてキャリアを再考し、家族と再出発するノンフィクションだ。

本記事は第9章「家族と発達障害」から2回に分けて抜粋する企画の後半。「家族を守る」父になれなかった著者が、障害を受容し、妻と娘と生きていくために受け入れた役割とは──。

※抜粋前半はこちら:発達障害の診断を受けた僕が、「わかってもらう」よりも大切にしたこと

◇ ◇ ◇


見えてきたメカニズム

娘は二歳半になっていた。できる限りの愛情を注いでいたが、愛情だけで子育てはできない。子育てに取り組むには、僕にとって特性への理解が必要だった。

一例として、聴覚過敏の問題がある。聴覚過敏とは、周囲の音を過剰に拾ってしまい、聞きたい音とそうでない音にメリハリをつけづらい脳の特性だ。生まれたばかりの頃には、泣き止まない娘を抱っこしながら自分も泣いていた。娘が泣く声だけでなく、テレビやスマホから流れる音、掃除機などの生活音に、疲弊していたのだった。

特性を知ったあと、ノイズキャンセリングヘッドフォンを購入した。このヘッドフォンから流れる音楽で周囲の音をマスキングすることによって、対処することができた。

些細なことからひとつずつ紐解といていくと、家族に自分はいらないと思ってしまっていたことや、鬱で休職を繰り返していたこと、離婚や別居を考えるほど夫婦関係が悪化していたことに、隠れていた要因が見えてきた。

特性に凸凹があることに気づかず平らにしようとして、空ぶかししては鬱になり、また闇雲に進んでいく。そんなメカニズムがありありと見えてきたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意 ロシ

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中