元東方神起のジェジュンやノーベル賞作家のハン・ガンが紹介...美学者の日記の言葉が感性のある人の心を打つ理由
美学者キム・ジニョンが残した個人的な文章が、研ぎ澄まされた感性を持つ人たちに支持されている理由は何か? それは、本書が生と死の境界に立った人間の思索の記録というまさに命を懸けた1冊であり、美学者ならではの突出した視点で世界を切り取る詩的で美しい言葉に満ちているからだ。
〈【2】:心を重くして揺らぐ時間はない。あまりにもたくさんの愛がまだわたしの中に残っている。その愛を使い切るにも時間が足りない。(出典:同書)〉
2日目の日記に綴られた、この覚悟からもわかるように、余命宣告は美学者にとって悲観の時間ではなかった。愛と生の意味を改めて考察する機会、思想家として人生をまっとうする満ち足りた時間となったのだ。
世界を観察する独自の視点と平明で詩的な言葉を持つ
どのページからでも読むことができるのが『朝のピアノ』の魅力だが、最大の特徴は、日常の何気ない風景や出来事の中に美を見出し、それを平明な言葉で描き出す美学者キム・ジニョンの観察眼にある。たとえば彼のベランダから見える景色の描写は、まるで一枚の絵画のように鮮やかだ。
〈【22】:朝風に葉が揺れる。枝先の小さい葉まで静かに嬉しそうに揺れている。木漏れ日がちりばめられ輝いている。木の下を人々が通り過ぎる。ひとりで、連れだって。黄色いカバンを背負った子供も小走りで行く。みんな街路樹の葉のように揺れている。肩に散らばった光が水面の細波のようにきらめいている。静けさと喜びに満ちた厳粛な世界を見つめる。その中心にいま、わたしはいる。(出典:同書)〉