最新記事
コメ騒動

「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政トライアングルの逆襲が始まった

2025年7月2日(水)17時42分
山下 一仁(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)*PRESIDENT Onlineからの転載

卸売業者の利益が増えたワケ

しかし、気になることがある。

第一点は、ある大手卸売業者の営業利益が前年比500%となっていることや最大で「五次問屋」まで存在することを指摘して、「流通が問題である」と主張していることだ。

なぜ、営業利益が増加しているのだろうか? これを分析しないで、単に卸売業者が儲けているのはけしからんという情緒的な対応になっていないだろうか?


コメのように鮮度が重要な食品や農水産物の場合、販売のルールは"先入れ先出し"である。古いものから販売していくということである。そうしなければ、腐ったり食味が落ちたりしてしまう。

卸売業者がJA農協から昨年買っていたコメ(令和5年産米)の相対価格は、1万5000円台だった。ところが現在、卸売業者は玄米60kgあたり2万7000円でJA農協から買っている。1年間で8割も上昇したのだ。

newsweekjp20250702074228.jpg

図表=農水省HPより

小売り段階では、精米価格5kgあたり2500円だったものが4200円となっている。

newsweekjp20250702074310.jpg

図表=農水省HPより


この価格に合わせて卸売業者全体が高い価格でスーパー等に売っている。ある卸売業者が買ったときの値段が安かったからといって、安く売れば、スーパーがいま売れる価格にあわせて販売し、利益を上げるだけだ。価格というのは、需要と供給で決まる。需要が高いものについて供給が足りなければ、価格が上がるのは経済学の常識だ。

価格低下の損失を補塡するのか

そして、買うときも時価、売るときも時価である。

つまり、1万5000円で買ったものが、先入れ先出しの原則から売るときに2万7000円になったのなら、利益が出るのは当然である。

逆に、備蓄米や輸入米の放出の効果が上がって、米価が例えば2万円に下がれば、2万7000円で買ったコメを売らざるを得なくなった卸売業者は損失を被ることになる。現在卸売業者の利益が増加しているのは、このような特殊な事情があるからだ。恒常的に高い利益を上げられるものではない。

いまの儲けを批判するなら、価格低下で損失が生じた際には、政府は損失補塡をする必要がある。

五次問屋が存在するかどうかは不明である。あるとしても特殊なケースではないだろうか。スーパーのバイイングパワーによって安価な販売を要求されているときに、多数の卸売業者が介在して多額のマージンを稼ぐようなことは想定しにくい。

もしそのような実態があるなら、どうして昨年まで5キログラム2000円台のコメが販売されていたのだろうか? 突然五次問屋が出現して、コメの値段を4000円台に引き上げることになったのだろうか? つじつまの合う説明は困難だろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.1万件増の23.5万件、約3

ワールド

ノルドストリーム破壊でウクライナ人逮捕、22年の爆

ワールド

米有権者、民主主義に危機感 「ゲリマンダリングは有

ビジネス

ユーロ圏景況感3カ月連続改善、8月PMI 製造業も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 4
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中