最新記事
レストラン

吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だが勝機あり...一風堂でも日高屋でもない、戦略をマネすべき「有名飲食チェーン」とは?

2025年7月2日(水)12時05分
鈴木貴博(経済評論家・百年コンサルティング株式会社チーフエコノミスト)*DIAMOND Onlineからの転載

さらに、重光産業は一番のノウハウであるスープだけは門外不出で自社から外に出しませんでした。味千ラーメンが成長した中国ではいまさら味を変えるわけにもいかないので、スープの仕入れ先を変えることは当然できません。こうして店舗数が600店に到達するとライセンス料とスープの売り上げも莫大な金額になります。

この味千ラーメンのやり方は、吉野家としてもトレースすることは可能ですが、再現不可能なのが「第二の潘慰を見出すこと」でしょう。

このように各社の戦略を整理すると、吉野家が単純に真似できる戦略はないことがわかります。言い換えると、吉野家には別の海外戦略が必要だということになります。


では、吉野家はどのような戦略をとるべきなのでしょうか。

先述したように吉野家HDのラーメンには少なくとも17種類のブランドがあり、異なる味があります。魚介が通用する国、とんこつが売れる国、鶏が受け入れられる国、どの国のライセンスを希望する企業にも「日本で売れている実績のある味」を提供することができます。

この味の選択肢は海外展開の強みになるはずです。ただ、それだけなら競合の外食チェーンも同じものを持っています。そこから何らかの工夫が上乗せされる必要があるでしょう。

たとえば、IPPUDOのように吉野家もグローバルなラーメンとしての強い統一ブランドを育てるのはひとつのやり方です。しかし、これには相応の時間が必要なので、2030年までに世界一を目指す戦略としては、最適解ではなさそうです。

別の業態ですが「鰻の成瀬」がやっているようなDX化・ロボット化をラーメン業界に持ち込む戦略もあると思います。

ラーメン通が、大規模なラーメンチェーンを嫌うひとつの理由が店ごと、従業員ごとの品質のばらつきです。ラーメンチェーンの場合、スープの味はセントラルキッチンで作るためにそれほど違いが出ないのですが、温度がばらつきやすい。それと麺のゆで方や湯切りの仕方でもバイトの力量で差が出ます。

こういった課題に対して、他業態では天丼の「てんや」やうな重の「鰻の成瀬」が店舗での調理体制をシステム化することによって品質のばらつきをなくすことに成功しました。海外のどの店舗で提供しても、本部のプロの調理師が作るラーメンと同じ味を提供できるのであれば、それは他のチェーンにはない強みになるかもしれません。

いずれにしても吉野家が目指す「10年後にラーメン提供食数世界一」が険しい道であることは間違いありません。そして進むことは難しいけれども到達できない場所でもない。この夏から若い新体制に入れ替わる吉野家HDには、ぜひとも挑戦してもらいたいと思います。

※当記事は「DIAMOND online」からの転載記事です。元記事はこちら
newsweekjp20241210070726-0536f5d9a0b841fadc7a37a3ae2182051cf62ee9.jpg

ニューズウィーク日本版 AI兵士の新しい戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月13号(1月6日発売)は「AI兵士の新しい戦争」特集。ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米FDA、健康増進目的のウェアラブル端末に対する規

ビジネス

独鉱工業受注、11月前月比+5.6% 大型受注が寄

ワールド

軍民両用品目の対日輸出規制強化、民生用途の輸出には

ビジネス

ファーストリテ、26年8月期業績・配当予想を上方修
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 5
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 6
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 7
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが…
  • 8
    公開されたエプスタイン疑惑の写真に「元大統領」が…
  • 9
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 10
    「ショックすぎる...」眉毛サロンで「衝撃的な大失敗…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 10
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中