最新記事
地経学

地経学の盲点「1回きりの武器」関税と輸出規制の限界

THE MIRAGE OF GEOECONOMICS

2025年6月17日(火)17時37分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)
地経学の罠──関税と輸出規制が通用しない理由

北京の地質・地球物理研究所に展示されているレアアース鉱物 VCGーREUTERS

<関税や輸出規制は敵国への圧力として好まれるが、それは本当に有効なのか? 米中の関税応酬やレアアース規制の実例が示すのは、こうしたツールの限界だ>

貿易は自由であるほどいい──数年前までは、それが世界の常識だった。関税は低めに推移し、各国政府は外国からの投資を誘致し、技術移転は繁栄を拡大する道と見なされていた。だが、時代は変わった。

軍事戦略研究家のエドワード・ルトワックが、地政学に経済的な側面を加えた「地経学」という言葉を生んでから35年。その概念が再び重みを増している。多くの国で、貿易政策は地政学の視点から考えるべきだという見方が広がっているのだ。


ルトワックが指摘したように、地政学的な紛争はゼロサムゲームだ。一方が得をすれば、他方が損をする。だが貿易は基本的に、双方に利益をもたらすウィンウィンのゲームだ。だから敵を弱らせる手段として貿易を使おうとすれば、必ずその性質の違いに突き当たる。

例えばトランプ米大統領が中国に対して取ろうとしている関税措置の影響をシミュレーションすると、アメリカのほうが中国より大きな損失を被ることが分かる。理由は単純。アメリカは世界経済の約4分の1、中国は5分の1を占めるが、輸出では中国がアメリカをやや上回る。

しかも、中国の輸出の約8割はアメリカ以外が相手だ。

つまりアメリカには中国に対して、重大な経済的損害を及ぼす力がない。しかし中国に高関税を課せば、米国内の企業や家庭は輸入品の価格上昇に見舞われる。おそらくこのことが決め手となって、トランプは中国との「休戦」に合意した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏「良識働けば協議で戦争終結」、 交渉不調

ワールド

米ポーランド首脳会談、ウクライナ情勢など巡り協議へ

ビジネス

米労働者の家計不安増大、8割近くが経済に懸念=米銀

ワールド

訂正-プーチン氏への「メッセージなし」、決定を待つ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中