最新記事
中国経済

借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」の中国が世界から見捨てられる

THE BIG REBALANCE

2024年10月4日(金)14時36分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
中国

いくら人気でも「貴州茅台酒」で構造問題は解決できない(貴州省) ORIENTAL IMAGEーREUTERS

<ドイツ軍艦の台湾海峡通過は中国政府を激怒させた。中国との経済関係を何より重視してきたドイツの「転向」は、何を意味するのか>

去る9月13日、ドイツの軍艦2隻が22年ぶりに台湾海峡を通過した。経済面ではひたすら中国との協調を演出してきたドイツが、政治面では強硬姿勢に転じた証しと言えばいいか。当然、中国政府は厳しい言葉で抗議と警告を発した。

その直前には中国経済の現況に関する月例報告で、またもや惨憺たる状況が示された。相変わらず物価は下がり続けており、設備投資などの企業活動も鈍い。それは中国経済が病んでいて、借金(債務)と人口(少子高齢化)とリスク回避(買い控え)の三重苦によるデフレから脱却できない現実を指し示している。


まさに内憂外患。習近平(シー・チンピン)国家主席の率いる政府はパニック状態で、ついに昔ながらの「砸鍋売鉄(ザークオマイティエ、鍋をつぶして鉄を売れ)」ということわざまで持ち出した。要は、どんな犠牲もいとわず(借金返済に必要な)原資を調達しろということ。それほどまでに事態は深刻なのだ。

公式発表でも、国全体の公的債務残高は2023年に前年比で45%も増えた。今年上半期には31ある省レベルの地方政府のうち、上海を除く全てが赤字だった。

税収不足に加え、公有地の売却で稼げなくなった地方政府は何としても債務弁済費用を調達しようと躍起になっている。民間人にも外国企業にも、軽微な法律違反に対して異様に重い罰金を科している。30年前にさかのぼって延滞税の支払いを強要してもいる。こんなことが「砸鍋売鉄」の現実だとすれば、それで得られるものは何もなく、ただ政府の危機管理能力への信頼が失われるだけだろう。

中央政府の対応も、地方政府に負けず劣らず巧妙かつ愚かしい。いい例が、皮肉を込めて「白酒化債(マオタイ酒で債務を溶かす)」と呼ばれた一件だ。100%国有の酒造会社「貴州茅台酒」の株式の10%を手放し、それを貴州省の地方政府に譲った。

本来なら中央政府に入るはずの利益の一部を、借金漬けの地方政府の救済に回した格好だが、何の解決にもならない。腐敗した地方官僚が喜ぶだけで、構造的な債務危機の解決にはつながるまい。

生産性の高い民間企業に売却すれば利益を出せるはずの国有資産を、習は手放そうとしない。少子高齢化と買い控えに起因するデフレ圧力の解消に役立つと期待される、一般家庭への消費奨励金支給にも反対している。どうやらこのサディスティックな支配者は、コロナ禍の終盤に厳しいロックダウン(都市封鎖)を継続して悲惨な結果を招いた教訓に学ばず、同じ過ちを繰り返そうとしているようだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

仏総合PMI、11月速報値は49.9 15カ月ぶり

ワールド

COP30合意素案、脱化石燃料取り組み文言削除 対

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、11月速報値は52.4 堅調さ

ワールド

アングル:今のところ鈍いドルヘッジ、「余地大きく」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中