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非喫煙者も「喫煙所が足りない」と思っていた──喫煙所不足が招く「マナー違反」

2024年8月29日(木)10時00分
高野智宏

商店会が被る経済的悪影響

喫煙できる店舗も公衆喫煙所も少ない現状で起こるのが、路上喫煙者の増加である。いまだ路地裏や駐車場では路上喫煙やポイ捨てを見ることも多いのではないか。なお、埼玉県の所沢駅で2022年6月に喫煙所を撤去した結果、周辺のポイ捨てが約2倍に増加したという。

大阪・関西万博の開催を来春に控える大阪市の商店会などで構成される「大阪市商店会総連盟」では、2022年11月に「大阪市内に必要な喫煙所数と設置不足が商店街におよぼす影響」と題した調査結果を発表。これによると、大阪市内に必要な喫煙所数は367カ所と試算する。同時に、喫煙所不足により商店会が被る悪影響は年間252億円に達するとも試算。大きな危機感を抱いている。

なお、大阪市も「大阪市指定喫煙所設置経費等助成金」を創設。喫煙所を新たに整備する場合は上限額1000万円など喫煙所設置を補助するほか、「地方たばこ税も喫煙環境整備に活用する」とし、指定喫煙所140カ所(新設120カ所、改修20カ所)の整備を進めている。

市内きっての賑わいを誇る大阪市北区、環境局の路上喫煙対策担当者によれば「区では約15カ所の喫煙所の整備を進め、現在、10カ所の整備が完了している」という。担当者は商店会総連名を通じ、補助金を使っての整備を呼びかけているものの、「なかなか、ご自分たちで(設置を進める)という商店会がいらっしゃらない。今後も路上喫煙の状況などを検証し対策を検討したい」と語る。

喫煙者の要望には応えられず

一方で、商店街側の思いとは。梅田駅を起点に東に伸びる阪急東通第一商店会の加納利彦会長に状況を聞いた。「市内にはいくつかできているらしいのですが、私どもの商店街や駅前にもほとんどない。設計図の用意はできていますが事態が動かない。本当に120カ所も設置できるのか」と首を傾げる。

加納会長は飲食店経営者。改正健康増進法の施行を機に店内を全面禁煙に切り替えた。「『どこで吸ったらいいのか』とよく聞かれる。喫煙所さえあればご案内できるんですけれどね。だから、商店街の中にも早く作ってほしいと思っております」

急がれる「喫煙環境の整備」

先のアンケート結果のように、喫煙所の整備が足りないことは非喫煙者も感じている事実であり、それが結果として路上喫煙を誘発している側面もある。半面、京都市では市内19カ所に公共の喫煙所を整備し、路上喫煙防止の啓発活動を行ってきた。その結果、ピーク時の2012年には6794件であった違反者の加療処分件数が2023年には277件まで減少と、その効果を証明している。

寓話「北風と太陽」ではないが、厳しい法令によるさらなる締め付けよりも、充実した喫煙環境を整備した方が、喫煙者はもちろん非喫煙者にとっても、有効に機能するのではないか。そしてそのためには、行政と事業者、そして市民が協力しあい、互いが譲歩できる喫煙環境の実現を目指すべきではないだろうか。

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