最新記事

アパレル

海外で成長続くユニクロが、最高益達成でも安心できない理由

2017年10月20日(金)18時42分
真城愛弓(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は10月12日の決算会見で、海外事業について「リスクはない」と強調した(撮影:梅谷秀司)

「リスクはない――」。カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は海外での売り上げが拡大していく状況について、そう断言した。

ファーストリテイリングは10月12日、2017年8月期決算を発表した。売上収益は1兆8619億円(前期比4.2%増)、本業の儲けを示す営業利益は1764億円(同38.6%増)と、いずれも過去最高を更新した。

toyokeizai171020-2-3.jpg

(左)中国・上海にあるユニクロ店舗(編集部撮影)(右)国内ユニクロ事業は冬物商品の伸び悩みや在庫処分の値下げで減益に(記者撮影)

牽引役は中国や東南アジア

業績を牽引したのが海外事業だ。海外ユニクロは中国(香港・台湾を含む)や東南アジア、オセアニアを軸に好調な売り上げを記録した。とりわけ主要マーケットの中国では、ユニクロのブランドイメージや最新商品を発信するインターネット上のプロモーション戦略が効いた。加えて、値引き販売の抑制や徹底したコスト削減が増益に寄与した。

こうした海外事業の好調ぶりをアピールしようと、決算会見には柳井会長のほか、中国事業の責任者を務める潘寧上席執行役員と、東南アジア事業を率いる守川卓上席執行役員が初めて出席した。

潘上席執行役員は中国事業について、「今後5年間で売上1兆円、営業利益2000億円を目指し、さらなるチャレンジをしていきたい」と高らかに宣言した。

一方、海外と比べると国内ユニクロの業績は物足りない結果だった。売上収益は8107億円(前期比1.4%増)と微増だったが、営業利益は959億円(同6.4%減)に落ち込んだ。

暖冬の影響で冬物商品の売り上げが伸びなかったことに加え、単価の低いインナーやカットソーなどの売り上げ比率が高まったことや夏の在庫処分での値下げが響いた。

国内事業について、柳井会長は「経費の削減を大幅にやっていかないといけない」と危機感をあらわにする。人件費や物流費の上昇が続き、多数の実店舗を展開するユニクロでは人材配置の適正化や配送の効率化が急務となっている。

toyokeizai171020-4.jpg

東京・江東区有明の次世代物流倉庫(編集部撮影)

日本企業だから日本で稼ぎたい

もう一つの課題が柳井会長肝いりで始動した「有明プロジェクト」の軌道化だ。このプロジェクトの狙いは、商品企画と物流を扱う部門が密に情報を共有し、商品開発のスピードを高めることにある。

今年2月、首都圏向け商品の物流拠点・有明倉庫の最上階にある5000坪のオフィスに、1000人の社員が六本木から移転。店舗や顧客ごとに、どのような商品が購買されているかなどといった情報を把握できる仕組みを構築し、消費者のニーズを即座に商品開発に反映できるようにする。

「この業界は、3分の2くらい無駄な商品を作っている。必要な商品が70~80%となるように、お客様や世界のトレンドをつかんで、必要な商品を必要な量だけ企画して生産して売っていく。基本は、無駄なモノを作らない、運ばない、売らないということだ」。柳井会長はそう強調する。

今2018年8月期の業績について、会社側は売上収益2兆0500億円、営業利益2000億円とそれぞれ過去最高を見込む。アパレル各社が国内需要の開拓に苦戦している中、柳井会長は「日本企業なので日本で稼がないことには始まらない。当然だが海外以上に日本では稼いでいきたい」と強気の構えを崩さない。有明プロジェクトの成否が国内回復のカギとなりそうだ。

ファーストリテイリングの会社概要は「四季報オンライン」で

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり

ビジネス

英アングロ、BHPの買収提案拒否 「事業価値を過小

ビジネス

ドル一時急落、154円後半まで約2円 その後急反発

ビジネス

野村HD、1―3月期純利益は前年比7.7倍 全部門
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中