最新記事

キャリア

アップルの内側から見た「超国家コミュニティー」

英語を話すという共通点以外は常識が通用しない相手ばかりだから、逆に説明しなくても済むような仕事の仕方が必要になる

2013年5月22日(水)15時30分
千葉香代子

 2002年からの7年間、アップル米本社開発本部のシニアマネジャーとして働いた松井博が、「僕がアップルから学んだこと」に次ぐ2冊目の著書を出版した。「企業が『帝国化』する」と題するその本のなかで、アップルの帝国的側面の最たるものとして国籍不問の「超国家」性を挙げている。超国家的な人材集積がシリコンバレーのイノベーションの源泉であることは、米経済地理学の第一人者、アナリー・サクセニアンも指摘している。インターネットの進化と共に急膨張する「超国家コミュニティー」の内側からは何が見えるのか、松井に聞いた。

──シリコンバレーやアップルは本当に超国家化していますか。

 ネットの発達が主な原因だが、企業や個人が国境を気にしなくなった。国家が地方自治体のようになりつつある。感覚的に、アメリカに住むか日本に住むかの選択が東京に住むか大阪に住むかぐらいの選択になっている感じ。県をまたぐ引っ越し程度。日本人でも、自分が外国に長く暮らしてなまじ2カ国語も3カ国語も喋れるようになっちゃうと、自分の子供はどこに住ませて何語で教育しようかという問題が切実になってくる。それに拍車をかけるのがITで、住居は日本だけど、教育はオンラインでアメリカの大学から、などといった選択肢も出てきている。

──昔よく言われた「国際化」とはどう違うのか。

 国際化では、英語を話せるようになって日本の文化を海外の人に説明できるようにしましょうということがよく言われた。現在グローバル企業の最前線ではそんなもの誰も求めていない。知っているに越したことはないが、それより、どこの国でも通用するビジネスモデルが作れるか、ということが問われている。限りなく無国籍に近い、例えばiTunesストアのようなビジネスモデルを作ってそれを世界中に展開できるような人材だ。それができる人間なら何人でも構わない。そういう発想だから、アップルもシリコンバレーも自ずと多国籍になる。

──アップルという超国家コミュニティーはどのように機能しているのか。

 英語を話すという共通点がある以外は常識が通用しない相手ばかりだから、逆に説明しなくても済むようなプロセスが必要になる。そこから出てくるのが、極力記号化されたコミュニケーション・ツールだ。ちょうど車椅子のマークのように、説明しなくても誰にでもわかるもの。表一枚作ってそれを見れば一目で進捗状況がわかってしまう、説明しないで説明できてしまう、というのが一番いい。そのためにはパワーポイントも使えば、同時にチャットもすごく使う。社内のいろいろな部署の担当者が入り乱れてチャットで問題点を話し合う。そうやってみんながつながり合ってぐるんぐるん回転している感じだ。

──イノベーションもそこから生まれてくるのか。

 みんなでああだこうだと言い合うからいいものができるというより、10人いれば1人ぐらいいいこと言う人間がいるだろうということ。10人が10人とも意見を言える環境がすごく大事。口をつぐんじゃう環境だと、いい意見が発掘できない。例えばアップルストアでは、レジに行列して支払いをするモデルは過去のものになっている。スタッフがもっている端末でクレジットカードを通すだけ。レシートはメールで送ってもらえる。そういう新しい仕組みづくり、どこでも通用するビジネスを作ろうとしたら自由にディスカッションできる環境欠かせない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ボーイング、777X認証試験の次フェーズ開始承認

ワールド

中国、レアアース対米輸出規制緩和で米軍関連企業を除

ビジネス

オリックス、カタール投資庁とPEファンド 投資総額

ワールド

ユーロ圏の銀行、気候対策次第で与信条件に差 グリー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中