最新記事

インタビュー

彼女が「白熱教室」で学んだこと

2012年4月25日(水)18時37分
井口景子(本誌記者)

 2010年にハーバードでMBAを取得後、アメリカに残ることを決めた石角さんは、その拠点としてシリコンバレーをめざす。だが、誰も知り合いがいない土地で、IT業界という未知の世界に挑む就職活動は難航。半年間の試行錯誤の末、グーグル本社への就職を勝ち取る。


──就職活動が難航した原因は?
 当時(2010年)は景気が悪かったし、アメリカの就職活動は日本以上に熾烈な世界レベルの争いになる。シリコンバレーにはハーバードの卒業生なんて掃いて捨てるほどいるから、それだけでは何の価値もない。

 私はマーケティングやファイナンスなど特定分野の専門技能があるわけではなく、IT業界の経験もなかったから、どんな会社のどのポジションを狙うべきか戦略を立てるのが難しかった。手当たり次第にメールや電話をしても、ほとんど返事は来なかった。過去の自分を全否定されることもあって、非常に辛かった。

──どういう点をアピールして就職活動を進めた?

 輝かしい経歴の人は金太郎飴のように大勢いるので、私の場合、起業した経験と日本人であること、そしてMBAの3つが融合した点が強みだと考えた。起業経験は、物事をゼロから作り上げる能力やリスクを取れる性格、人と違うことに挑んだ経験を意味するので高く評価されやすい。

 日本人であることも、日本人が思っている以上に差別化要因になる。マイナーな企業であっても、例えば日本進出を考えているフェーズであれば、日本市場がわかる人材が求められる。といっても、こういう仕事ができる人がほしいという情報が流れる頃にはすでに誰かに決まっているから、「私はこんな仕事ができるから雇いませんか」という意気込みで当たっていった。

 起業経験や日本語能力はあくまで最初の足掛かりにすぎない。何より大変なのは面接に呼ばれることだから、まずは履歴書でそのあたりを強調し、面接にこぎつけたら表現力や批判的思考力、業界への情熱や人間的な魅力をアピールした。

──グーグル本社でどんな仕事をしている? また、シリコンバレーで働く日本人として意識していることは?

今の仕事は日本市場とはまったく関係なく、アメリカ人がやるのと同じ会社のコア業務を担当している。だが、自分が日本人であることは色々な面で生かされている。

──具体的には?
 シリコンバレーで働く日本人というだけで目立つし、アメリカ人からみれば非常にバリューがある。それをきっかけにしてネットワークを築いたり、新しいチャンスを手に入れられることもある。ハーバードのアメリカ人の先輩から「君がもっていて僕がもっていないものは、他の国で仕事ができる文化的な知識だ。アメリカ人からみれば喉から手が出るほどほしいアドバンテージだから、それを最大限に利用すべきだ」とアドバイスされた。アメリカ人と同じコアな業務ができるうえに、国際的な仕事もできるのだから、ただのアメリカ人よりもずっと強い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中