電気自動車が安くなる「歴史の法則」
GMは年内発売の電気自動車「ボルト」の価格を4万1000ドルと発表。確かに高過ぎるが、価格はいずれ下がる
贅沢品 シボレー・ボルトの値段はアメリカの年間世帯所得の約8割に相当 Reuters
ゼネラル・モーターズ(GM)は7月27日、アメリカで年内に発売する電気自動車「シボレー・ボルト」の希望小売価格を4万1000ドル(約360万円)に設定すると発表した。連邦政府から最大7500ドルの税控除を受けられるとはいえ、お世辞にも安いとは言えない。なにしろ、アメリカの世帯所得の中央値は5万ドルあまり(08年の数字)だ。
懐疑論が噴き出すのは目に見えている。GMが販売しているガソリン自動車「シボレー・マリブ」の価格は、約2万1000ドル〜。価格に2倍近くの開きがあって、わざわざ買い換える人がどの程度いるのか。自動車メーカーが富裕層だけを相手にハイブリッド車や電気自動車を売り込んでいるようでは、地球を救うことなどできないのではないか。
もっともな疑問だ。ガソリン価格が比較的低く、ガソリン専用車のほうがはるかに安く買えれば、ハイブリッド車や電気自動車の普及は一筋縄でいかないだろう。だが、そういう状況がずっと続くわけではない。懐疑論者は、テクノロジーの歴史を見落としている。
携帯電話とパソコンの歴史を見よ
なるほど、今はマリブのほうが有利な点がいくつかある。少量生産のボルトに対し、マリブは大量生産。ボルトは新しい高価なテクノロジーを用いるが、マリブが用いるガソリン自動車テクノロジーは1世紀の歴史があり、コストが安い。しかも、ボルトのハイブリッド車・電気自動車市場にはまだ競争相手が少ないのに対し、マリブのガソリン車市場は競争が激しく、価格を抑えて市場シェアを拡大しようという貪欲なライバル企業がたくさんいる。
しかし、ボルト(とそれを購入しようとする消費者)もいずれ、いまマリブが浴している恩恵にあずかることになるかもしれない。歴史を振り返れば、高級品としてデビューした商品の価格が予想以上の速さで下落し、多くの消費者に手が届くようになった例は、山ほどある。
1990年に私が初めて買ったコンピューター(マッキントッシュだった)は2000ドル近くしたが、まだモデムがついておらず、モニターは悲しくなるほど小さかった。CD−ROMやメモリースティックではなく、フロッピーディスクにデータを保存していた。いま500ドル払えば、これより格段に性能のいいパソコンが手に入る。
同様の現象は、製品だけでなく、サービスの分野でも起きる。25年前に携帯電話を買おうと思うのは、よほどの金持ちだけだった。携帯電話端末も通信料も非常に高額だったのだ。今では、端末の家格も通信料も安くなり、先進国では誰も彼もが携帯電話を持っている。
ガソリン車はこうして大衆化した
実は、ガソリン自動車普及のプロセスにもこの価格下落のパターンが見て取れる。20世紀初めにアメリカで「自動車時代」が幕を開けた頃、自動車は金持ち用の高価なオモチャだった。周囲に自分の財力を見せつけるためのステータスシンボルだったのだ。