最新記事

自動車

電気自動車が安くなる「歴史の法則」

2010年8月2日(月)18時39分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

 大多数のアメリカ人にとって、自動車はとうてい手の届かない贅沢品だった。歴史家ダグラス・ブリンクリーの著書『ホイールズ・フォー・ザ・ワールド----ヘンリー・フォードとその会社、進歩の世紀』によれば、1903年の時点で大半の自動車メーカーは「3000〜4000ドルという法外な価格で」自動車を売っていた。この年にアメリカで販売された自動車は1万2000台。ヘンリー・フォードが最低価格2000ドルで「B型フォード」を発売したのは、この翌年のことである。

 米労働統計局の統計によると、1913年(この統計は1913年が一番古く、1903年のデータはない)の3000ドルは、インフレ調整すると現在の6万6000ドルあまりに相当する。しかも同じ資料によれば、1901年の時点でアメリカの平均世帯所得は約750ドルだった。要するに、自動車の価格は平均的な家族の年収の4倍もしたのだ。これでは、自動車が広く普及することなど、とうてい考えられない。

 その後、状況は大きく変わった。1908年に、「T型フォード」が850ドルで発売された。依然として高価ではあるが、所得水準が上昇したことを考えあわせれば、いくらかは手が届きやすくなった。

 これ以降もフォードが生産量を拡大し、生産の効率化を推し進めた結果、価格は大幅に下落した。「2人乗りの小型のT型フォードの価格は、1919年には395ドルだったのが、25年にはわずか260ドルまで下落した」と、ブリンクリーは書いている。「1925年、希望小売価格は平均世帯所得のおよそ8分の1まで下がった」

年間1000万台に達すれば......

 もちろん、T型フォードは特異な例だ。ヘンリー・フォードが成し遂げたような大きな進歩は、そうそう頻繁に生まれるものではない。それでも、自動車産業はイノベーションを重ね、消費者に「より安価で」「より優れた」商品を提供し続けてきた。今日2万5000ドルで売られている自動車は、5年前には想像もできなかったような機能の数々が備わっている。

「電気自動車1万ドル時代」が数年以内に訪れる----などと言うつもりはない。それでも、多くの自動車メーカーが新しい技術と市場に果敢に挑戦し、電気自動車の生産体制や技術、ノウハウを蓄え、生産台数が年間1000万台に達すれば、10年、20年先には、電気自動車の価格は大幅に下がっているはずだ。

 ガソリンの価格が上昇し、ことによるとガソリン税が引き上げられれば、電気自動車の普及にますます追い風が吹く。電気自動車がコスト面でガソリン自動車に太刀打ちできる時代は、いずれやって来る。それは夢物語でもなんでもない。

Slate.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米AT&T、携帯電話契約者とフリーキャッシュフロー

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3%で予想上回

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米金利高止まりを警戒

ワールド

メキシコ大統領選、与党シェインバウム氏が支持リード
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中