最新記事

独裁者に挑むハッカーの「人海戦術」

中東革命の軌跡

民衆が次々と蜂起する
中東の地殻変動を読み解く

2011.05.17

ニューストピックス

独裁者に挑むハッカーの「人海戦術」

ムバラク体制を打倒するため反体制派が取り組むメッシュネットワーク

2011年5月17日(火)20時05分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 先月末にエジプト政府が国内のインターネット網を遮断してから数時間後、意外な人々が状況打開に乗り出した。世界のハッカーだ。

 すべての始まりは、アメリカの起業家シャービン・ピシェバーがネット遮断直後に書き込んだツイート。エジプトにある普通のノートパソコンをインターネットルーター化するソフトを現地に送りたい、そのため力を貸してほしい──。このソフトを使って、パソコンからパソコンへメッセージを順次送っていく形の通信網「メッシュネットワーク」をつくろうというのだ。

 世界の技術者たちはピシェバーのメッセージを次々に広め、このプロジェクトへの協力を申し出た。ルーター機能を使えば近くの人との通信は可能になる。もしネットワーク内の1台がダウンしても、別のパソコンを通じたルートを探してメッセージを伝達できる。

「携帯型の臨時ネットワークはつくれる」と、ピシェバーは言う。「最低でもエジプトの人々は連絡を取り合って団結できる」。ネットワーク内の誰かが外部との通信手段を得られれば、それをネットワーク内の人たちと共有することもできる。

 いち早く呼び掛けに応えたのは、米ミシガン州でIT企業を経営するゲーリー・ジェイ・ブルックス。彼はすぐにウェブサイトを開設し、世界の技術者からのメッセージをまとめ始めた。エジプト国内のワイヤレス技術の専門家にも連絡を取った。アメリカの技術者たちが持ってるソフトの「部品やかけら」を組み合わせれば、誰でも簡単に使えるソフトができると、ブルックスは言う。

 パソコンにこの機能が内蔵されていなくても、メッシュネットワークをつくる手だてはある。ピシェバーに連絡してきたカナダの技術者チームは、メッシュネットワークのソフトを内蔵したレンガほどの大きさの小型ルーターを開発した。「リュックや車でこうしたルーターを何台も持ち歩き、街中や山、屋根の上にセットして回る。そうすれば遮断できないネットワークをつくり出せる」と、ピシェバーは言う。

 おそらくエジプトのネット接続は、携帯型ルーターが完成する前に回復する。それでもピシェバーが完成を望んでいるのは、抑圧的な政府を持つ他の国々でも活用したいと考えているから。イランやシリア、イエメンがエジプトと同じ事態に陥らないようにすることが彼の目標だ。

[2011年2月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中