最新記事

奇襲攻撃でソウルを制圧せよ

北朝鮮 変化の胎動

強まる経済制裁の包囲網
指導者の後継選びは最終局面に

2010.09.17

ニューストピックス

奇襲攻撃でソウルを制圧せよ

天安号「魚雷攻撃」への関与を否定する金正日政権が準備する新たな戦争プラン

2010年9月17日(金)12時05分
マーク・ホーゼンボール、ブラッドリー・マーティン

 韓国海軍の哨戒艦「天安」が爆沈し、乗員46人が死亡・行方不明となったのは3月26日のこと。原因究明に当たっていた国際チームが、ついに結果を公表した。

「証拠を見る限り、北朝鮮の潜水艦が発射した魚雷によるものと結論せざるを得ない。それ以外に説明がつかない」。アメリカ、オーストラリア、イギリス、スウェーデンの専門家を含む調査チームの報告には、そう記されている。

 5月20日に発表されたこの報告、確かに証拠は示しているが、動機には触れていない。

 病身の「親愛なる首領様」こと金正日(キム・ジョンイル)総書記率いる北朝鮮に、もとより国際社会の常識は通用すまい。だが、それにしてもなぜ、この時期に韓国の軍艦に魚雷を撃ち込むという危険な挑発に出る必要があったのか。

 あいにくアメリカは、こと北朝鮮に関する限り、直接的な情報をほとんど持っていない。安全保障に関わる当局者らも、金正日の不可思議な思考回路や同国の権力構造がほとんど分かっていないことを認めている。

 微妙な問題であるため匿名を条件に取材に応じた米当局者2人によれば、北朝鮮が攻撃に踏み切った理由を裏付けられる情報をアメリカはまだ入手していない。

 しかしアメリカの専門家の間では、ある見解が定着しつつあるという。3月の魚雷攻撃(北朝鮮は関与を真っ向から否定している)は、昨年11月に北朝鮮の艦艇が韓国側の砲撃によって大きな損害を被ったとされる事件への報復だとする見解だ。

 当時のBBCの報道によると、韓国軍は北朝鮮艇が黄海上の北方限界線(北側は認めていない)を越えてきたので砲撃した。北朝鮮艇も応戦したが、あっという間に炎上したという。

 北朝鮮側は限界線を越えていないと反論し、韓国に謝罪を求めているとBBCは伝えた。またニューヨーク・タイムズは、北朝鮮の将校1人が死亡し、乗組員3人が負傷したと伝えている。

 言うまでもないが、北朝鮮は3月の魚雷攻撃以前から、自国の敵は「容赦なく殲滅する」という威嚇を繰り返してきた。しかし、誰も真に受けなかった。それは50〜53年の朝鮮戦争以来、北朝鮮がお題目のように唱えてきた常套句の1つにすぎないからだ。

ソウル占領だけで十分

「北朝鮮の脅威を口にする専門家たちも、実は相手を見くびっていた。軍隊の規模こそ大きいが、朝鮮半島の統一を実現する力があるとは思えないからだ」と、米海兵隊指揮幕僚大学の教授(国際関係)で北朝鮮の軍事力に詳しいブルース・ベクトルは言う。

 だがベクトルによれば、今後は北朝鮮が核兵器を使用する可能性も考慮すべきだ。同国が戦争プランを変更したとの報道もあり、北朝鮮の「威嚇」を単に虚言癖のある独裁者のはったりと考えてはいけないのかもしれない。

「(諸外国は自国にとっての)北朝鮮の軍事的脅威を軽視しがちだが、大事なのは韓国にとっての脅威を考えることだ」と、『赤いならずもの国家──北朝鮮の絶えざる挑戦』という著書もあるベクトルは言う。北朝鮮が「軍隊とその作戦計画を、今の時代に合わせて変えてきた」からだ。

 この発言は、5月18日付の韓国有力紙「中央日報」に載った記事を踏まえたものだ。

 同紙が韓国軍高官の発言として伝えたところでは、北朝鮮は戦争勃発の事態に際して、韓国全土を1週間以内に占領するという従来の作戦計画を破棄したらしい。

 中央日報によると、代わりに北朝鮮が立てた計画はこうだ。北朝鮮軍は軍事境界線から南下して速やかに韓国の首都ソウルとその周辺を制圧する。さらに南進するか、直ちに停戦交渉に入るかは、状況次第で決めればいい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

商船三井、25年3月期純利益は減益予想 

ワールド

アジア太平洋、軟着陸の見込み高まる インフレ低下で

ワールド

中国4月PMI、製造業・非製造業ともに拡大ペース鈍

ワールド

豪小売売上高、3月は予想外のマイナス 生活費高騰で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中