最新記事

基地問題の元凶は主権問題にあり

日米関係
属国か対等か

長年の従属外交を脱して
「ノー」といえる関係へ

2009.11.10

ニューストピックス

基地問題の元凶は主権問題にあり

目先の基地移転だけでは日米同盟に未来はない

2009年11月10日(火)12時37分
リチャード・サミュエルズ(マサチューセッツ工大学教授)

 米軍の基地問題は、慢性の湿疹のようなものだ。日米同盟を絶えず悩ませ、なかなか完治しない。自民党が基地対策特別委員会を設置したのは61年。だが、治療方法はまだ見つかっていない。

 現在、湿疹は2カ所で悪化している。神奈川県のキャンプ座間と、沖縄県の普天間飛行場だ。ドナルド・ラムズフェルド米国防長官が進めている世界規模の米軍再編のもとで、キャンプ座間については機能強化が検討されている。沖縄ではこの10年、基地移転問題での進展はみられない。

 日米の高官協議はあてにならず、膠着状態に陥っている。日本政府に圧力をかけようと、ラムズフェルドは10月下旬に予定されていた訪日を中止した。

 こうした状況は、日米同盟そのものを脅かす。米軍と自衛隊の司令部間で連携を強化し、共同訓練を増やし、軍備計画の統合や基地の共同使用を増やす。それらすべてが、より対等な軍事同盟を築くプロセスになる。

その場しのぎの再編プラン

 にもかかわらず、日米の防衛当局は事あるごとに交渉の前進を阻んでいる。米政府内には、日本の姿勢を、同盟国としての責任を全うしない「タダ乗り」だとぼやく声がいまだに根強い。一方、日本側からしてみれば、基地問題は同盟の柱の一つであるとしながらも、政治的には地方の問題だととらえている。

 キャンプ座間の近隣2市は最近、基地拡大に反対する住民約30万人分の署名を政府に提出し、米軍の「占領」はいつ終わるのかと公に疑問を呈した。「座間は第二の安保(闘争)になる」と、ある国会議員は大規模な抗議運動に発展しつつあるとの見方を私に語った。

 だが、在日米軍基地の移転や拡大といったことよりも、はるかに根深い問題がある。日本の主権問題だ。

 20年前、島口武彦・元防衛施設庁長官がベトナムを訪れてソビエト海軍基地について尋ねると、ベトナムの担当者はこう答えたという。ベトナムに外国軍の基地はない、施設を貸しているだけだ、と。日本も主権を完全に取り戻して(米軍基地の)治外法権をなくさなければ、日米同盟はハンディを背負ったままだろうと、島口は嘆いた。

 湿疹を治すには、まずかゆみの元を取り除かなくてはならない。基地の国内移転といった「塗り薬」の効き目は一時的なものにすぎない。主権問題は、ただちに向き合わなくてはならない問題だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測

ワールド

ペロシ元下院議長の夫襲撃、被告に禁錮30年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中