コラム

習近平vs李克強の権力闘争が始まった

2020年08月31日(月)07時00分

奇襲作戦への反撃に出た習近平

7月21日、習近平国家主席は北京で国内の経営者たちを招いて「企業家座談会」を開き、中国の経済問題について討議した。

座談会には習以外に、汪洋全国政治協商会議主席、王滬寧政治局常務委員、韓正副首相が出席した。共産党の最高指導部である政治局常務委員会の7人のメンバーのうち、習を含めて4人も出席しているから、まさに異例のハイレベル会議だ。当面の経済問題に対する習と指導部の重要視ぶりがうかがえる。

驚いたことに、この主席主催の重要会議を首相の李克強は欠席した。中国で経済運営は首相の管轄事項の1つである。政権中枢に設置されている経済運営の司令塔「中央財経指導小組」では、組長の習の下で李が副組長を担当している。李は本来、習主催の経済関連ハイレベル会議に誰よりも出席すべきであろう。

李欠席の原因は、外遊や地方視察のために北京を留守にしていたわけでもない。同じ7月21日、彼は北京で別の外交活動に参加していることが人民日報の報道で判明している。もちろん、習主催の重要座談会であるから、李が自ら参加を拒んだとは考えにくい。拒む理由もないはずである。

だとすれば、習自身が李を呼ばなかったことが欠席の理由だろう。つまり習は最初から、李を参加者リストから外していた。しかし事実がもしそうであれば、それは重大な政治的意味を持つ出来事である。職務担当が経済運営と全く関係のない王滬寧政治局常務委員までが会議に呼ばれたのに、李が呼ばれなかったのはもはや異常事態、あまりにも露骨な「李克強排除」だ。

さらに再反撃する李克強

習による「李克強排除」は当然、前述の李の奇襲作戦に対する反撃、あるいは報復であろう。「俺の経済政策を打ち壊すなら、お前を経済運営の中枢から追い出してやるぞ」という意味合いの行動である。それ以来、できるだけ李を経済政策の意思決定から排除するのが習の基本方針となっている模様だ。

8月24日、習近平が9人の専門家たちを招いて座談会を開き、第14次5カ年計画について討議した。この座談会には前述の王滬寧、韓正が出席したものの、李克強はやはり「欠席」していた。

ここまでくると、熾烈さを増す習近平と李克強との政治闘争は半ば表面化している。こうした中、8月初旬からの恒例の北戴河会議が終わった直後に、李はまたもや思いもよらぬところから習に対する果敢な奇襲作戦を展開した。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

次期FRB議長の人選、来年初めに発表=トランプ氏

ワールド

プーチン氏、欧州に警告「戦争なら交渉相手も残らず」

ビジネス

ユーロ圏インフレは目標付近で推移、米関税で物価上昇

ワールド

ウクライナのNATO加盟、現時点で合意なし=ルッテ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story