コラム

中国外交トップ「チンピラ発言」の狙いは自分の出世?

2021年03月23日(火)12時33分

アラスカでアメリカ側に通常の外交辞令を超えた言葉を浴びせた楊潔篪 REUTERS-Frederic J. Brown/Pool

<先週アラスカで行われた米中外交トップ会談で、中国の楊潔篪・共産党政治局委員はまるでチンピラがケンカで使う言葉をブリンケン国務長官に浴びせた。その目的は実は自分の出世だった?>

3月18日と19日に米アラスカ州で行われた米中外交トップ会談は、初日の会談冒頭から波乱の展開になった。

記者に取材を認めた双方の冒頭あいさつで、アメリカ側のブリンケン国務長官とサリバン大統領補佐官がまず事前の申し合わせに従ってそれぞれ、2分数10秒程度話した。それを受け、中国側の楊潔篪・共産党政治局委員は持ち時間を大幅に超えて16分間の演説を行い、声を荒げて痛烈なアメリカ批判を展開した。これに対してアメリカ側も、退室しようとした記者たちを呼び戻して反論した。このような展開の中、米中会談は思わぬ険悪ムードのスタートとなった。

米中外交トップ会談に多大な期待をかけてきた中国

中国の楊氏は一体どうして、冒頭から延々と「反米演説」をぶったのか。それについての解説は後述に譲るが、中国側は本来、この2日間の会談に大きな期待をかけ、それを米中関係改善の良い機会にしょうと考えていた。

中国側の認識としては、米中関係が悪くなったのは全部トランプ前政権のせいであって、トランプ政権が「間違った対中認識」に基づいて米中関係を壊してしまった。したがって中国にすれば、アメリカの政権交代は米中関係回復の絶好のチャンスである。だから、今年1月のバイデン政権成立の前後から、中国政府はさまざまな機会を使って米中関係の根本的改善を訴えてきた。

例えば昨年12月7日、王毅外相は米中貿易全国委員会理事会代表団とのオンライン会談で、「今後の米中関係は対話を再開して正しい軌道に戻り、相互信頼を再建すべきだ」と語った。

バイデン政権成立後の今年2月11日、ようやくバイデン新大統領からの電話を受け取った習近平国家主席は、会談で「両国の協力が唯一の正しい選択だ」と語り、両国間関係の改善をアメリカ側に呼びかけた。

そして3月7日、王毅外相は全人代の記者会見で米中関係について、「正常軌道への回帰」に再び言及したのと同時に、「辞旧迎新」(過去に別れを告げて未来を迎える)という中国の四字熟語までを持ち出して、バイデン新政権下における米中関係の根本的改善に多大な期待を寄せた。

3月7日の時点で、18日からの米中外交トップ会談はすでに予定されていたから、王外相の「辞旧迎新発言」は当然、このトップ会談を強く意識したものであろう。中国側はやはり、関係改善の望みをこの待ち遠しいトップ会談に託していたのだ。

しかし、この重要会談に望んだアメリカ側の態度と対応は、中国側にとってはまさに不本意かつ侮辱的なものであった。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story