コラム

なぜだか惹き込まれる、スマホで撮ったパリの日常

2019年05月08日(水)11時25分

こうした写真哲学は、パリとそれに絡みつく日常の美学から来ているのかもしれない。実際、自らのスタイルであるストリートフォトグラフィーについて、彼はこう語る。


ストリートフォトグラフィーは生活を切り取るものだ。日常の、その瞬間の、私たちの周りにある全てのね。それはどんな小さなことも、あるいは意義がないと思われることまでをも含む。私はそうしたものを、先入観を入れずに本能的に切り取りたい。歴史のあるパリには、あらゆる魅惑的な日常が満ち溢れている。

結果として、パリがはらむ「フレンチタッチ」に大きな影響を受けているのかもしれない、とも言う。アンリ・カルティエ=ブレッソンに代表される、20世紀前半~中期のクラシックな感覚と決定的瞬間の2要素が融合された写真表現だ。

無論、さまざまな歴史と芸術を内包するパリがどんな非日常さえ日常化してしまうという点には、欠点もある。クリシェ(目新しさのない常套手段)である。誰かが、それも多くの者がすでに行ったものと同じになってしまう危険性から逃れるのは極めて難しい、とアルノーは語る。

とはいえ、だからこそ、ごく平凡な日常の中でも、人間のほっとする部分を瞬間的に鋭く見極める「写真家の目」が養われたのかもしれない。ちなみに、彼の作品には、政治的・社会的なメッセージを持つ写真はほとんど見られない。それは、意図的にせよ無意識的にせよ、AFPでの仕事と切り離しているためらしい。

今回紹介したInstagramフォトグラファー:
Stéphane Arnaud @frommywindows

20240521issue_cover150.jpg
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プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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