コラム

終わりの見えない「移民危機」、それでも耐えるニューヨーク

2023年09月06日(水)14時00分

難民申請の受付所となったホテルの外にまで並ぶ難民の人たち(8月1日) Mike Segar-REUTERS

<可能な限り難民を受け入れようというアダムス市長の姿勢を市民も支持している>

2022年の春以来、ニューヨークには続々と移民を乗せた大型バスが到着しています。そのほとんどは、南部国境を越えてアメリカにやってきた「難民申請者」ですが、中南米から直接ここへやって来たのではありません。多くの場合は、フロリダ州とテキサス州から「転送」されてきたのです。

この2州の知事は保守系であり、トランプ前政権と同じく壁を完成させて南部国境を閉鎖せよという主張をしています。また、不法越境ではなく難民申請を求めて国境についたホンジュラスやベネズエラなどの人々についても、テキサスやフロリダとしては面倒を見る必要はないとしているのです。

そこで、この2州は、難民申請者をニューヨークなどに「送り込み」始めたのでした。トランプ政権の不法移民摘発と追放の政策に反発し、「自分たちのコミュニティーは少なくとも不法移民の基本的人権が保証される聖域(サンクチュアリ)」だなどと言うのなら、不法移民を「喜んで受け入れるはずだ」というロジックで、一方的にバスを仕立てたのでした。

以来、1年半近くの間に計10万人の難民申請者が送り込まれています。彼らに対しては、難民認定を行うために面接や書類審査などが行われますが、平均して500日、つまり結論が出るのに1年半はかかっています。ですから、非常に多くの難民申請者がニューヨークの市内に滞留することになります。

この1年半、市長はこの問題に忙殺

現在は、バスはまずグランドセントラル駅に近い、既に閉館が決まっていた「ルーズベルトホテル」に到着し、そこが、受付の手続き場所になっています。(客室は以前に来た難民申請者で埋まっています)手続きをするまで、待ち行列が長くなっており、一時は屋外で一夜を過ごすという状況もありました。

受付を済ませると、宿泊施設に収容されます。最初は、ホームレス救護用のシェルターが、ホームレスたちが管理を拒否して入所しなかったために余っており、そこに入る人が多かったのですが、すぐに満杯になり、現在は多くのホテルや、一部の学校の体育館などを借り上げて使用しています。

それも一杯になってしまったので、運動公園にテント村を設置しようとして、反対する地元とトラブルになるなど、アダムス市長はこの1年半、ほとんどこの問題に忙殺されていると言っても過言ではありません。

こうした難民申請者を収容し、手続きを進めるのにかかった費用ですが、概算で1年間に50億ドル(約7000億円)がかかっているとされています。市長はニューヨーク州のホークル知事と、連邦政府のバイデン大統領に支援を要請していますが、現時点では市の「持ち出し」になっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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