コラム

ようやく終わる日本の「コロナ鎖国」に反省はないのか?

2022年09月28日(水)11時30分

あまりに「厳格」な水際対策によって日本の信用は大きく失われた Kim Kyung Hoon-REUTERS

<厳格すぎる水際対策で多くの人たちに苦痛を味わわせたが、そうやって稼いだ時間を国内の感染防止策に有効に活用することはできなかった>

いわゆる「水際対策」にようやく出口が見えてきました。政府は、10月11日から多くの国に対して、ビザなし渡航を再開するとともに、一日の入国上限を撤廃するようです。21世紀の鎖国といわれ、G7諸国の中では最も厳格な入国規制を敷いていた日本ですが、ようやく「開国」となるわけです。

これからは、日本への旅行を楽しみにしていた外国人旅行者が、相当な勢いで戻ってくるでしょうし、日本の観光・運輸業界には、ようやく活気が戻ってくるだろうと予想されます。

けれども、今回の「水際対策」については、このまま過去のエピソードとして「水に流す」わけには行きません。

訪日観光客問題の横で忘れられた格好ですが、この2年半の間、観光以外の具体的な目的のある訪問者も締め出していたこと、このことによって苦痛を受けた人々のことは忘れてはならないと思います。

まず、時期によって、また対象国によって扱いは異なりますが、通常は「ビザ免除」とされていたG7などの親日国に対しても、この間、特にコロナ禍の初期には「外国人の入国禁止」という措置が取られ、多少緩和された後も「ビザの発給」が条件となっていました。

家族の死に目にも会えない

例えば、日本人と結婚している配偶者で、日本にも婚姻届が出て戸籍に記載されている人でも、外国籍であれば入国禁止もしくはビザ必須という対応となっていました。また、ビザを申請する際に、初期は「戸籍謄本の原本」が必要とされ、日本の親族に代理取得して送付してもらってもコロナ禍による郵便事情で結局「有効期間以内には配達されない」可能性があったなど、一部の国では大変なストレスを抱える人が出ていました。

また、これも初期の話ですが、ビザを申請する際にG7すなわち先進国の国籍者に対しても「不法滞在しないように経済力の証明として銀行の残高証明を出せ」などという理不尽な要求がされることがあり、知日派の学者やビジネス界の要人などが憤慨したという話もありました。

一番の問題は、家族の重要な瞬間に立ち会えなかったということです。

「日本の家族が亡くなれば、特段の事情として葬儀列席目的のビザを考慮できるが、亡くなる前はダメと言われて、日本の義父や義母の死に目に会えなかった」

「結婚したら配偶者としてビザを出せるが、日本には婚約ビザという概念はないので、外国での婚姻証明を持ってこいと言われ、ちゃんと日本の親に会って認めてもらってから結婚という順序が踏めなかった」

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下

ワールド

米大統領とヨルダン国王が電話会談、ガザ停戦と人質解

ワールド

ウクライナ軍、ロシア占領下クリミアの航空基地にミサ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 7
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 8
    もろ直撃...巨大クジラがボートに激突し、転覆させる…
  • 9
    日本人は「アップデート」されたのか?...ジョージア…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 6
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story