コラム

強行退院したトランプが直面する「ウィズ・コロナ選挙戦」の難題

2020年10月06日(火)16時45分

ホワイトハウスに戻ると早々にマスクを外して見せたトランプ Erin Scott-REUTERS

<感染判明から5日目でホワイトハウスに戻ったトランプ、退院を強行したと形容したほうが自然>

10月2日(金)にヘリコプターで搬送され、メリーランド州の軍人病院に緊急入院したトランプ大統領は、週明け5日(月)の夕刻、退院して同じようにヘリでホワイトハウスに戻りました。この間、主治医は何度も会見に応じましたが、大統領の正確な容体ははっきりしません。

ただ主治医の発表や、補佐官のコメントなどを総合しますと、「発熱はあったが解熱剤を使わずに下がった」「血中酸素濃度の低下が2回起きた」「酸素吸入の措置は全く取られなかったわけではない」ということのようです。また、薬剤の投与としては「リジェネロン社製のカクテル抗体」「レムデシベル」「ステロイド剤のデキタメタゾン」の3種が使用されたとのことです。

通常ですと、こうした薬剤が効力を発揮して肺炎症状が抑制もしくは快方に向かったとしても、最初の陽性結果が10月1日の木曜日で、入院がその2日目、そして今回の退院が5日目というのは非常に早いと言えます。退院を強行したという形容が自然です。

どうして退院を焦ったのか? それは選挙に落ちるのが怖いからでしょう。一刻も早く選挙戦に戻りたいし、入院患者というイメージを払拭したいからに違いありません。

ですが、これからのトランプ大統領は2つの大きな困難を抱えていくことになると見られます。

もう再入院はできない

1つは治療法に事実上の制限があるということです。例えば一度退院しておいて、再び病院に戻るということとなると、「重態ではないのか」という憶測を生んでしまいます。投票日まで30日を切った現在、それは避けたいはずです。

より難しいのは、仮に肺炎が深刻化した場合のECMO(体外式膜型人工肺)による治療の問題です。ECMOというのは、コロナで傷付いた肺を休めて治癒を待つ療法ですが、その間の生命維持は人工の肺に血液を循環させて酸素交換を行うことで確保します。

今回の新型コロナの場合は、できるだけ肺に負荷をかけないこと、その一方で、全身を安静にするために通常は長期間にわたって鎮静剤を使用します。仮に救命のためにそのような治療が必要となると、合衆国大統領の場合は憲法修正25条により副大統領に一時的な指揮権を移譲する必要が出てきます。これは、選挙におけるイメージを壊滅的に低下させますし、選挙結果はともかくトランプが大統領職を失う可能性に直結します。

ですからECMO治療というのは事実上、選択不可能で、そのために安全性の十分に確認されていない薬剤による治療などを焦って行っていると考えられます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

ニュース速報

ワールド

バイデン氏支持率41%、債務問題解決でも横ばい=世

ビジネス

中国不動産市場、支援策の奏功には時間が必要=政府系

ビジネス

トルコリラ急落、介入から変動容認の当局方針変化を示

ビジネス

英スナク政権、総選挙前の減税余地ほとんどない OE

MAGAZINE

特集:最新予測 米大統領選

2023年6月13日号(6/ 6発売)

トランプ、デサンティス、ペンス......名乗りを上げる共和党候補。超高齢の現職バイデンは2024年に勝てるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    「中で何かが動いてる」と母 耳の穴からまさかの生き物が這い出てくる瞬間

  • 2

    性行為の欧州選手権が開催決定...ライブ配信も予定...ネット震撼

  • 3

    ワグネルは撤収と見せかけてクーデーターの機会を狙っている──元ロシア軍情報部門将校 

  • 4

    自社株買いでストップ高!「日本株」の評価が変わり…

  • 5

    元米駆逐艦長が「心臓が止まるかと」思ったほど危機…

  • 6

    メーガン妃が「絶対に誰にも見られたくなかった写真…

  • 7

    「ダライ・ラマは小児性愛者」 中国が流した「偽情報…

  • 8

    プーチンは体の病気ではなく心の病気?──元警護官が…

  • 9

    マーサ・スチュワート、水着姿で表紙を飾ったことを…

  • 10

    ワグネルに代わってカディロフツィがロシアの主力に…

  • 1

    ロシアの「竜の歯」、ウクライナ「反転攻勢」を阻止できず...チャレンジャー2戦車があっさり突破する映像を公開

  • 2

    「中で何かが動いてる」と母 耳の穴からまさかの生き物が這い出てくる瞬間

  • 3

    「日本ネット企業の雄」だった楽天は、なぜここまで追い込まれた? 迫る「決断の日」

  • 4

    米軍、日本企業にTNT火薬の調達を打診 ウクライナ向…

  • 5

    「ダライ・ラマは小児性愛者」 中国が流した「偽情報…

  • 6

    敗訴ヘンリー王子、巨額「裁判費用」の悪夢...最大20…

  • 7

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 8

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎ…

  • 9

    どんぶりを余裕で覆う14本足の巨大甲殻類、台北のラ…

  • 10

    ウクライナ側からの越境攻撃を撃退「装甲車4台破壊、戦…

  • 1

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 2

    世界がくぎづけとなった、アン王女の麗人ぶり

  • 3

    カミラ妃の王冠から特大ダイヤが外されたことに、「触れてほしくない」理由とは?

  • 4

    「ぼったくり」「家族を連れていけない」わずか1年半…

  • 5

    F-16がロシアをビビらせる2つの理由──元英空軍司令官

  • 6

    築130年の住宅に引っ越したTikToker夫婦、3つの「隠…

  • 7

    歩きやすさ重視? カンヌ映画祭出席の米人気女優、…

  • 8

    「飼い主が許せない」「撮影せずに助けるべき...」巨…

  • 9

    預け荷物からヘビ22匹と1匹の...旅客、到着先の空港…

  • 10

    キャサリン妃が戴冠式で義理の母に捧げた「ささやか…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story