コラム

対イラン関係の緊迫化で混乱状態に陥った米政局

2020年01月07日(火)15時40分

年明けから米メディアの報道はイラン関連一色になっている(写真はバグダッドの米大使館の警護にあたる米兵、今月3日) US Marine Corps / REUTERS

<トランプの狙いは、米大使館へのテロ行為への報復と同時に、イランとの緊張状態を恒常化させて米国内での政治的求心力を高めること>

イランの革命防衛隊に属するクッズ部隊のソレイマニ司令官を、トランプ大統領が命じて殺害させたというニュースは、連日大きな扱いとなっています。この事件ですが、トランプ大統領としては、イラクの米大使館などに対するテロ行為への報復であると同時に、イランを挑発して緊張状態を恒常化し、原油高を演出しつつ、米国内の政治的求心力を高める作戦として実行したと考えられます。

同時に、年明けから本格化するはずだった議会上院における「弾劾審査」や、2月のアイオワ党員集会、ニューハンプシャー州予備選で公式にスタートする民主党予備選の報道について、イラン問題が覆い隠すという効果も計算しているでしょう。実際に年明けのアメリカのメディアはこのニュース一色になっています。

また、昨年末以来、ニューヨークを中心に頻発している「反ユダヤ」のヘイトクライムについて、「トランプの白人至上主義に触発された」という声が出てくる可能性があるのですが、イスラエルの仇敵であるイランとの確執をエスカレートさせることで、この種の批判を防止するという効果も計算しているかもしれません。

さらに言えば、反政府ジャーナリストのカショギ氏暗殺事件以来、ギクシャクしていたサウジアラビアとの関係を改善し、あらためて「アメリカ=サウジ連合」が「イラン、シーア派イラク民兵、イエメン民兵」などと対立する構図を強化したかったという見方もできるでしょう。

もっと突っ込んで言えば、9.11テロへの報復としてアフガニスタン戦争、イラク戦争に突っ込んでいったジョージ・W・ブッシュが「戦時の大統領」として支持率を上げたという事例を再現したいのかもしれません。

トランプ側の動機はともかく、事件が報じられて以来、政局はかなりの混乱状態に陥っています。

基本は「より激しい分断」が起きているように見えます。共和党の議員団は大統領支持でほぼ団結している一方で、民主党の側は議員団も大統領候補もトランプの判断を厳しく批判しています。そんな中で、中東情勢の複雑化を受けて、軍事外交の経験の薄いエリザベス・ウォーレン候補への支持が低下するとか、反対にアフガンでの軍歴のあるピート・ブーティジェッジ候補への期待が高まるといった現象も起きているようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

主要行の決算に注目、政府閉鎖でデータ不足の中=今週

ワールド

中国、レアアース規制報復巡り米を「偽善的」と非難 

ワールド

カタール政府職員が自動車事故で死亡、エジプトで=大

ワールド

米高裁、シカゴでの州兵配備認めず 地裁の一時差し止
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリカを「一人負け」の道に導く...中国は大笑い
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 8
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 9
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 10
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story