コラム

シリアから電撃撤退したプーチンの意図はどこに?

2016年03月17日(木)15時30分

シリア領内の空軍基地から本国に向けて帰還するロシア空軍機 Russian Ministry of Defence-REUTERS

 今月14日、ロシアのプーチン大統領はシリア駐留部隊の「主要な部分」について、翌日から撤退を開始すると宣言しました。しかも、政府の会議にテレビカメラを入れさせ、「軍は目的を果たしたので、シリア・アラブ共和国からの撤退を明日から開始せよ」と述べるシーンの映像を世界中に配信させたのです。

 ロシアは、シリアのアサド政権を支持する姿勢を明確にしたまま、昨年9月にシリア領内での軍事作戦を開始しました。ミサイルと航空機による空爆は効果絶大で、内戦が続く中で苦戦していたシリア政府軍は息を吹き返しています。この「空爆開始」も電撃的でしたが、その時は「アサド体制支援」という意図は明白であり、その点でのサプライズはありませんでした。

 ですが、今回は国際社会にはサプライズが走っています。サプライズというのは、意外感があるというだけでなく、プーチンの「意図」が読めないからです。ちょうどジュネーブで行われている「3年越しのシリア和平協議」が、この14日に再開されているので、「その日」を狙っての撤退は何らかの「策」であることは間違いないのですが、一体、何を考えてこの時期に撤退を宣言し、また実行したのでしょうか?

【参考記事】死者47万人、殺された医師705人......シリア内戦5年を数字で振り返る

 様々な憶測が可能です。依然として原油価格が1バレル30ドル台という安値圏が続く中で、エネルギー輸出が最大の産業であるロシアの経済は苦境が続いています。通貨にしても、1ドルが80ルーブルという悪夢のような水準からはやや持ち直したものの、依然として70ルーブルと安く、とにかく「カネがない」というのも一つの要因でしょう。

 多くの解説は、和平会議を進展させるためというものです。とにかく停戦を実施し、恒久化するために、プーチンとして最も有効な手を使ったという説明ですが、では、どうして激しい戦闘に加わってきたロシアが急に和平へと傾斜したのでしょうか?

 このままシリア領内で軍事行動を続けていると、トルコとの緊張が高まる一方だという指摘もあります。確かにそうした懸念はあります。ですが、これも決定的な理由ではないように思われます。

 西側、つまり欧米との関係を改善したい思惑、そのように「メッセージを解読」することも可能です。和平会議に協力し、トルコとの緊張を回避するというのは、要するに欧米とはシリア問題に関する対立を止める、その延長で全体的な関係改善に進もうという意図という解釈もできます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ブラックフライデーの米オンライン売上高は過去最高、

ワールド

北朝鮮の金総書記、空軍の核戦争抑止力を強調 式典で

ビジネス

中国製造業PMI、11月は8カ月連続50割れ 非製

ワールド

米・ウクライナ、30日にフロリダで会談 和平案協議
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税」...なぜ他国には真似できない?
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story