コラム

イギリス総選挙がアメリカで関心を呼ばない理由

2015年05月12日(火)10時48分

 アメリカから見ればイギリスは、いつの間にか独立戦争の宿敵という怨念は消え、同じ英語圏に属する兄弟国家として親しみの対象になっています。第一次世界大戦以降は、ほとんどの戦争で米英は相互に協力していますし、諜報機関同士が緊密な関係にあるのも有名です。

 人的交流も非常に盛んで、大学院レベルでは相互の留学は頻繁ですし、観光客の行き来も多く、結果として大西洋横断路線の中でも米英航空路というのは空の幹線になっています。

 また、君主制を採用しなかったアメリカにとって、イギリス王室は強い好奇心の対象であり今回の、ウィリアム王子とキャサリン妃の第二子誕生というニュースも、大変に大きく報道されました。

 そのイギリスは、5月7日に総選挙を実施し、キャメロン首相率いる保守党(トーリー)が過半数を獲得して政権を維持しました。例えば、昨年9月のスコットランド独立を問う住民投票がアメリカでも大きな関心を呼んだように、イギリスの政局はアメリカで大きなニュースになるのが通例です。政治専門のTV局である「CSPAN」では議会庶民院(下院)の本会議の中継があるぐらいです。

 ですが今回の総選挙に関しては、アメリカではほとんど関心を呼ぶことはありませんでした。劇的な結果が出たにもかかわらず、翌日の地上波3大ネットワークのニュースでは、扱いはほとんどゼロか結果の紹介だけに留まったのです。新聞の扱いも大きくありませんでした。

 なぜそこまで関心が薄いのでしょうか。

 まず何と言っても、アメリカが「内向き」ということがあります。海外のことは、直接自分たちに関係してこない限りは、あまり関心を向けないのが、現在のアメリカの世相です。

 特に安全保障の分野で、アメリカとイギリスが同盟軍として活動を共にしているのならともかく、現在はアフガニスタンもイラクも撤収段階ですから、相手のイギリスの動向には関心が薄いのです。

 そのイラクの戦争に関して、イギリス側でブッシュと同盟して戦争を遂行したブレア政権は中道左派の労働党政権で、その戦争参加を批判して政権を奪ったのが右派の保守党という分かりにくい「ねじれ」があるのもアメリカで関心が薄い理由だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決

ワールド

ロシア、ウクライナ攻勢強める 北東部と南部で3集落

ワールド

米、台湾総統就任式に元政府高官派遣
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story