コラム

北陸新幹線、E7・W7系新型車両は坂道にも強い

2015年03月17日(火)12時35分

 3月14日に北陸新幹線の金沢延伸は無事開業しました。アメリカにいる私はまだ新規開通区間は経験できていませんが、今回使用されている新幹線の新型車両E7系にはすでに乗っています。本来ですと、金沢延伸と共にデビューということでも良かったのかもしれませんが、昨年3月に長野行きの「あさま」に投入される格好ですでに営業運転を開始していたからです。

 昨年3月のある日、機会があったので私はこの「E7系」で東京~長野間を往復し、その乗り心地を体験することができました。内外装が魅力的なことはすでに多くの報道がありますし、乗車された方も多いと思うので今回は技術的な問題についてお話ししておこうと思います。

 この「E7・W7」系についてですが、クルマの性能ということではどうかというと、ものすごい目新しさはないわけです。例えば、東海道山陽のN700Aの秒加速度が2・6キロなどというような通勤電車並の急加速能力もありませんし、同じくN700Aや東北新幹線のE5、秋田新幹線のE6にあるような超高速でのカーブ通過を可能にする「車体傾斜装置」などは搭載していません。

 営業最高速度に関して言えば、東海道の時速285キロ、山陽の時速300キロ、東北の時速320キロと比較すると、法的な枠組みの問題もあって、この北陸新幹線は時速260キロにおさえられています。

 では、平凡なクルマであるかというと、そうでもないのです。このE7・W7には明らかな特徴があります。

(1)12両固定編成による大量輸送能力。
(2)碓氷峠の30パーミル(1000メートルで30メートル上がる)勾配を「安全に上り下り」できる登坂・降坂能力。
(3)東西の周波数(50Hz/60Hz)への対応。

 この中では(3)は純粋に技術的な問題ですが、何と言っても重要なのは(1)でしょう。新幹線の金沢延伸前には、越後湯沢乗り換えの特急「はくたか」や長岡乗り換えの「北越」など「今はなき」在来線特急で輸送していた人の移動に加えて、羽田~小松間の航空機は大型機で一日12往復も飛ばしていた、その移動も新幹線にやってくるわけです。

 その大量輸送を担うため、従来の長野新幹線などのE2系の8両編成または10両編成ではなく、12両固定編成としたというのは、やはり感慨深いものがあります。定員934名というのですから、これは東海道山陽の16両固定は別格として、この輸送力というのは非常に重要でしょう。開業ブームにわく現在でも、「かがやき」「はくたか」については昼間には空席が出ているようであり、大変な輸送力だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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